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ランバルトが部屋に入ると、コナタは布団にくるまってダンゴムシのような格好をしていた。ランバルトは幼い子供のような姿のコナタをくすりと笑うと、横に座った。
「こら、布団から出な」
「………やだ」
「俺と話しをしようぜ」
ランバルトが優しくそう言うと、コナタはおずおずと布団から顔を出した。ランバルトは間抜けなその姿にまた笑った。
「兄ちゃんと離れるのがそんなに嫌か? ん?」
「……うん」
「だろうな。ナユタもコナタと離れるのは嫌だと思うぜ」
ランバルトの言葉に、コナタはじゃあなんで? という顔をした。離れるのが嫌なら離れなきゃいい。兄とずっと一緒にいたい、コナタはそう思った。その目にはまだ涙が溜まっていた。
「あんな、学校に行けばずっとまともな仕事につけるんだ。それこそ今ナユタがしてるような仕事なんかじゃなくて、もっと楽に稼げる。ナユタはお前の将来のために学校行かせたいんだよ」
「……俺、だって学校は行きたいけど兄ちゃんが傍にいてくんなきゃ…」
顔をぐしゃりと歪めてコナタはついに泣き出した。ランバルトは傍に近寄りそっとコナタを抱き寄せた。
「出稼ぎは長いけど、学校行ってりゃあっという間だ。ナユタは弟大好き人間だから、きっと毎日のように手紙やらなんやらくるし、それに友達だってできる。寂しくないさ」
「………じゃああんたは?」
「え?」
「あんたは俺の傍にいてくれる?」
コナタはじっとランバルトの目を見つめた。この会ったばかりの兄の友人はなんというだろうか? もし本気で自分たち兄弟を案じていないなら、この問いに頷かないだろう。コナタはランバルトの焦げ茶色の瞳に写る自分を見た。
一方ランバルトは薄暗い部屋の中で、コナタの透き通るようなグリーンの瞳に見つめられ数秒固まった。試されてるのだろうか? 幼いコナタにこのような質問をされてランバルトは戸惑った。されど自分を見つめる幼いコナタの目は真剣そのもの。ランバルトはごくりと唾を飲み込んだ。
「………あ、あぁもちろん、もちろん傍にいるよ。なんなら二十四時間いつまでもお前の傍にいてやる」
茶化しつつもランバルトは言い切った。コナタは数秒、じいとランバルトを見つめると布団から出て、腫れた瞼を擦った。
「………下、行って兄ちゃんと話してくる」
「おぉ」
コナタが一階に行くと、ナユタがこれまた不安そう顔でソファーに座っていた。コナタはがそっと近づくとナユタはぱっと顔をあげた。
「コナタ!」
「兄ちゃん、あの、行ってもいいよ、出稼ぎ…」
「………そうか」
「でも手紙とビデオレター、忘れないで」
ナユタはコナタをぎゅうと抱き締めるとぐりぐりと締め付けた。
「兄ちゃん、痛い! 痛いよ!」
「コナタ、毎日手紙書くからな!」
「う、ん、分かったから離して痛い!」
ナユタは力を緩めたがコナタを離すことはしないでしばらく可愛い弟を抱き締めた。
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