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俺達は車に乗って帰るまで終始無言だった。俺は震える手で車を運転していた。
******
そして次の日の夜、俺と鬼頭は沼尻に呼び出されて沼尻の家に行った。
「どうした?」
「昨日の事なんだけど…」
沼尻は真っ青な顔をしていた。
「夢に、昨日のオカマが出てきて…なんか言ってくるんだ」
「……俺はなんともなかったけど…」
「俺も…」
俺と鬼頭は顔を見合わせた。
「沼尻、なんか心当たりないのか?」
「………実は」
鬼頭は沼尻に尋ねた。すると沼尻は思い当たりがあるのか、立ち上がり昨日持っていた鞄を持ってきた。
「これ……昨日持って帰ってきたんだけど…」
沼尻が鞄の中から取り出したのはバイブだった。悪趣味などきついピンク色のつるりとした大人のおもちゃだ。
「お前なんだってこんなものを…」
「周りに言えば笑えるかなって……。今朝起きたら尻の当たりがしっとりしてて、鞄にしまったはずのこのバイブが床に転がってぶるぶる振動してたんだ。電池は入ってないはずなのに…」
もう沼尻は半泣きだった。俺だったそんな目にあったら半泣きになる。
「あのオカマ怒ってんだよ、きっと。明日また俺の車で屋敷に行こう。それでバイブを返そう」
「小名田ぁ…ありがとぉ……」
俺がそう言うと、沼尻は俺に抱きついて泣き出した。
******
泣く沼尻を宥めて俺と鬼頭は一先ず自分の家に帰って、俺はさっさと寝ることにした。
そして俺は恐ろしい夢を見た。夢の中で俺は、あの屋敷の壊れたベッドに縛り付けられていた。横にはオカマがいて、スカートの中から赤黒いちんこが勃起していた。
「ひぃ!」
「………え、して」
俺は身をよじり逃げようとしたが動くことはできなかった。オカマは何か言いながら俺のズボンと下着をずり下ろしていった。
「やめて、やめてくれ!」
「えせ、バ…ブを、えせ!」
叫んでもオカマはやめようとしない。しまいには自分のちんこを俺の尻に入れようとしてきた。
「うわあぁぁぁ!」
「かえ、せ! バイ、ブ!」
俺はやっとオカマが何を言いたいかが分かった。
「返す! 返すからやめてくれぇ!」
俺がそう叫ぶと、オカマはちんこを俺の尻から離した。そして俺は目が覚めた。
目が覚めるともう朝で、俺は慌てて着替えて鬼頭と沼尻と車に乗って急いで屋敷に向かった。鬼頭も同じ夢を見たらしく青ざめていた。もう一刻でも早くあのオカマから俺達は解放されたかった。
「ぬ、沼尻、は、早くば、バイブを…!」
「う、うん」
俺は沼尻からバイブを受けとると二階のテラスに向かってバイブを投げた。もう一度あの屋敷に入る度胸などなかった。
「すみませんでした!!!」
俺達は屋敷に向かって頭を下げた。
*****
そしてその日の夜また夢にオカマが出てきた。だけど、犯されそうにはならなかった。夢の中でオカマはバイブを持ってて、立ち尽くす俺に物凄い笑顔で親指をグッと立ててきた。俺はとりあえず苦笑いで親指を立て返しといた。
そして朝、沼尻に会いに行くと奴は夢の中で「許す」と言われたと嬉しそうに話してきた。鬼頭も似たような夢を見たらしくほっとしていた。
もう二度と肝試しには行かない、そう三人で約束した大学三年の夏だった。
end.
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