3
小屋に着くとキリはさっそく薪を使い火をつけ部屋を暖める。
「そこに座れ」
「…ああ」
キリは湯を沸かし干した草を入れて、茶を作る。
体が冷えている宗一郎に飲ませてやろうとしているのだ。
「飲め」
「ありがとう…」
宗一郎は体がほうっと温まるのを感じた。暖かい茶が喉を下り、腹の中を満たしていく。
「鬼、名前はなんていう?」
「……キリじゃ。わしの名前はキリじゃ。お主はなんていう名前なんじゃ?」
キリ、という名前はキリが生まれた時からあった。誰かにそう名付けられたわけでもなく、キリの頭の中にあったのだ。自分はキリだ、と。
「宗一郎」
「宗一郎か! わしは覚えたぞ!」
宗一郎、宗一郎と繰り返すキリに、クスッと宗一郎は笑みをこぼした。
気が緩んだのか眠気が宗一郎を襲う。
「キリ」
「なんじゃ」
「眠いんだ」
「なら寝ればいいじゃろ。寝ろ」
「……うん」
ぽすっと小さな音をたて、宗一郎は藁の上に寝てしまった。
キリは宗一郎の寝顔を見ながら茶を飲む。
なんだかよくわからない人間という生き物は茶を飲んで寝てしまった。
自分の寝床が奪われてムッとするが、キリの心はどこか暖かいもので一杯だった。
「うぅん…」
宗一郎が小さな寝息を立てた。
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