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「先生、入りますよー」
貰った合鍵で部屋に入り声をかける。返事はない。とりあえず先生のいるだろう寝室へ向かいドアをノックする。
「先生、おはようございます。棚森です」
「………おぅぅ」
うめき声のような先生の返事に驚きつつ、俺はドアを開けて寝室に入る。
「薬買ってきましたよ」
「あ、りがと」
「とりあえず冷えぴた貼って、ご飯食べましょうか。レトルト粥買ってきましたから」
「た、のみます……」
熱があるのか真っ赤な顔してベッドに横たわる先生のおでこに冷えぴたを貼って、いったん部屋から出る。キッチンに行き、数えるほどしかない食器を一つ取りレトルト粥を入れてレンジでチン。その間にポカリをコップに入れて、薬も箱から出す。お粥が温まったら、全部お盆に乗せてまた寝室へ。
「先生、起き上がれます?」
「う、ぐぅぅ」
寝ている先生に声をかける。俺の言葉に唸りながら先生は体を起こした。わぁ、つらそう。
「とりあえず食べましょう」
「う、ん」
病院によくある、移動できる机にお粥を置いてベッドの上へ。先生、ぶるぶる震える手でお粥を食べてる。相当具合悪いんじゃないか。
「まあ、少し食べたらさっさと薬飲みましょう。はい、どうぞ。二錠ですよ」
「……」
もう返事する気力もないのか、俺が差し出した薬を無言で受けとる先生。ごっくんって音と一緒に先生の喉が動いた。
「よしじゃあしばらくしたら熱下がりますから。そしたらまたご飯食べましょう」
「……」
こっくりって顔を縦に動かす先生。俺はとりあえずキッチンでお茶でも淹れることにした。
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先生に前あげた静岡産のお茶を飲みながら、俺はほうと息をついた。あいつとどうやって別れようか。もうあそこまでコケにされてたんだからなんか言ってやりたい。あぁでも俺って優しい人間だからあいつが謝ってきたら許しちゃう気もする。だってやっぱり好きだから付き合ってるわけだし? あ、向こうは付き合ってるつもりないんだっけ。
「………しぃ君?」
「あ、起きました? ご飯食べます?」
「うん、食べます…」
おでこに冷えぴたつけたままのちょっとまぬけな姿で清水先生がやってきた。
「じゃ、温めますね」
さっきの残りのお粥をチンして、またポカリをコップに用意。ささっとポカリを先生に差し出し、お粥には梅干しを一つのせる。うーん、完璧。
「あ、僕梅干し嫌いだからいらないです」
……あらそう。じゃあいいよ。俺が後でお茶漬けに乗せて食べるよ。けっ、ワガママな奴め。これ最高級の梅干しだぞ。一粒ウン百円だぜ。隣のばあちゃんのお裾分けじゃないんだからな。
「いただきます、しぃ君」
へぇへぇ。俺が作ったんじゃないですけどね。どこかの工場のおばちゃんですけどね。というかしぃ君って呼ぶのやめてくんねぇかな。俺真也だけどまさやって読むんだよ。最初会ったときちゃんと自己紹介したんだけどね。
「なんか買ってきて欲しいものとかあります?」
「え、あー、じゃあポカリの大きいの何本かお願いします」
「…はい。じゃあ買ってきますね」
笑顔で言ったけどさ、あれ、重いよ。清水先生って鬼畜? それともただの馬鹿?
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