馬鹿No.1
俺いわゆる馬鹿ってやつ。アホともいうらしい。たっちゃんにはぶっちぎり馬鹿No.1だって言われた。お前みたいな馬鹿なやつみたことないって。ああでもたっちゃんを怒る気にはならないんだよね。なんたってたっちゃんへの愛、ぶっちぎりNo.1だからさ。
俺がそうたっちゃんに言うと周りは冷やかすし、たっちゃんは怒るんだけど、俺たっちゃん愛してるからなんともないのよ。たっちゃんが俺を好きになってくれるまでいい続けるつもり。
なんでそんなにたっちゃん愛しちゃってるかというともう単純ですよ。一目惚れ。へへ、これ言った時も単純馬鹿って言われた。
入学式で一目惚れしてすぐ告白しちゃった。殴られたけど。痛かったなぁ。その時のたっちゃん、どうやら俺にからかわれてると思ったらしいんだよね。馬鹿だなぁ、俺がたっちゃんをからかうはずかないのに。
偶然同じクラスになって偶然隣の席で。俺嬉しくて皆が自己紹介してんのにたっちゃんに話しかけてた。
次の日もその次の日もたっちゃんに話しかけまくって、そのうちなんかクラスメイトに笑われるようになった。なんか俺が冗談で言ってると思われてるみたい。やだなぁ、本気なのに。
毎日毎日たっちゃんに愛をささやき続けたらなんかたっちゃん優しくなった。俺舞い上がっちゃってその日階段から落ちちゃった。たっちゃん保健室まで来てくれた。ついにたっちゃんに俺の思いが通じたか! って思ったらたっちゃん俺が不憫になったんだって。馬鹿すぎて。まあそれでもいいかって言ったら、やっぱりお前は馬鹿だな、って言われた。でもたっちゃん笑ってた。
それからたっちゃんとちょっとずつ仲良くなってお友達になれた。周りはご主人様と犬とか言ってくるけど。あ、ご主人様はもちろんたっちゃんね。もういっそ犬でもいいかもって思ったのはたっちゃんには内緒。
たっちゃんと出会ってから二年経った今でも毎日たっちゃんに告白するけど毎日玉砕。もうなんか悲しみなんかなくなって空しくなるよね。でもたっちゃんへの愛はやっぱりぶっちぎりでNo.1。俺はやっぱり馬鹿No.1。
たっちゃん愛してるもう最高。付き合って下さい。これ何回言ったかなぁ。
******
そんなこと考えてたら病室の扉開く音がした。首動かせないから誰か見れないけど、誰が来たかは分かる。たっちゃんだ。
「よぉ…」
やあたっちゃん元気? 俺相変わらず今日もたっちゃんの事愛してるよ。
「………元気か?」
うんうん、元気元気。たっちゃんは首の動かせない俺のために、俺の視界に入るようにちゃんと座ってくれる。優しいね。
「皆今日も心配してた。町田の事」
そっかぁ。なんか悪いねぇ。
「早く、元気になれよ」
だから元気だってば。ただちょっと体が動かないだけで。もうそんなに心配しないでよ。むしろ俺のほうが心配なんだからね。たっちゃん浮気しちゃだめだよ。
「………っ…まち、だ…!」
何言っても反応しない俺見てたっちゃん泣きそうな顔してる。やだな、泣かないでよ。
「………ごめん…! 本当にごめん! 俺のせいで……!」
たっちゃん泣いちゃった。やだなぁ、たっちゃんのせいじゃないよ。俺がたっちゃんの事助けたかっただけだよ。でも、やっぱりちゃんと前見て歩こうね。もしかしたらまた車が突っ込んでくるかもよ。
「ごめっ……ほ、っとごめん…!」
もういつもそればっかり。俺退屈だよ。それよりジョンプでも買ってきて読み聞かせて欲しいなぁ。マルトの続き、気になってるんだよね。ナンピースも読みたいなぁ。
だからさ、たっちゃんもう泣かないで。俺全然平気だから。
たっちゃんの頬を伝う涙を拭いたかったけど俺の手は動きそうにはない。じゃあ声をかけてあげたいけど声が出ない。せめて笑顔でも見せて安心させてあげたいけど顔が動かせない。もうまいったなぁ。
でもさ、俺さ、こうなっちゃっても全然平気。毎日たっちゃん来てくれるし。ただ泣くのはやめて欲しいかも。ほら、好きな子には泣いて欲しくないじゃん?
だからね、たっちゃん泣き止んで。
******
次の日はクラスメイトの田中と進藤が来てくれた。いつもこいつら俺のことからかってきたなぁ。
「町田。チーッス」
「よ、町田ぁ」
田中、進藤。チーッス。
「お前ジョンプ好きだろ。持ってきたぞ」
「マルト今熱いぞ」
おうサンキュー。田中と進藤気利くじゃん。見直したぜ。
「いい加減早く治れよな。クラス辛気くさくてたまんねぇぞ。桐山なんて毎日死人みたい」
田中が俺の顔覗きこみながら言ってくる。隣で進藤もうんうん頷いてる。なんだ俺そんなに人気あったの。嬉しいなぁ、ははは。でもたっちゃんが死人みたいだってのは嫌だなあ。どうやら早く治さないとヤバいみたい。
「お前本当に馬鹿だよな。桐山助けて車に轢かれるなんて」
いや、むしろ本望です。たっちゃん死んだら嫌だもん俺。馬鹿でいいもん。
「山田もさ、なんか元気なくて授業中暗いしさ、俺たちもお前いないとからかうやついなくてつまんない。だからささっさと復活しろよ」
「女子なんか泣いてるぞ」
山田先生、俺の事嫌いじゃなかったの? いっつも俺のこと馬鹿もん! って怒ってたのに。てかお前らなんだかんだいって優しいのな。俺お前らの事ちょっと好きになったよ。
「じゃ、ジョンプでも読むか」
「読んだら復活しろよ」
おうよ。だから早くマルト読ませて。
******
マルト読んでも復活はしなかったけど、気分は良くなった。やっぱりマルト面白いね。たっちゃんにもお薦めしてたんだけどたっちゃんマンガ読まないのよね。もったいない。
「ゆうり、元気?」
あ、ママだ。仕事はいいのかな?
「今日はいい天気よ。ぽかぽかしてて」
そっかぁ。でもよくわかんない。ごめんね。やっぱりさ感覚がちょっと鈍くなってるんだよね。やんなっちゃう。
「今日ね、お医者様と話してね手術することになったの。ゆうりの体すぐに良くなるわよ」
わあ、ありがとうママ。でもさお金大丈夫? パパとママの給料そんな高くなかったと思うよ。
それにね、俺知ってんだよ。前お医者さんとママたち話してたじゃん。俺は一生このままだって。だからさ望みの薄い手術なんかしなくていいよ。
「そしたらまた皆で旅行にでもいきましょ」
そうだね。もし治ったら目一杯親孝行してあげるよ、ママ。あ、パパも。
「じゃあママお仕事だから。また明日くるわね」
うん。ありがとう。ママ、待ってるね。
******
俺さ、いっそポックリ逝っちゃえばよかったかなって思うことあるよ。ママとパパは俺の入院費稼ぐのでやつれてきたし、たっちゃんなんか死人みたいだし。周りに心配かけちゃってる。ポックリ逝っちゃえば皆そんなに悩まなかったんじゃないかなぁ。少なくとも半年経ったら皆元に戻るよ。でも俺が生きてるから半年経っても皆辛気くさい。やんなっちゃう。
でもね、俺実は気付いてる。たっちゃんは最近時々しか来ないし、田中たちもあんまり来なくなってきた。ちょっと悲しいけどそれでいいんだ。いつまで俺に捕らわれるなんて可哀想。だからね、大丈夫。
ああでもちょっと嫌なことある。涙が拭えないから視界が滲んじゃって滲んじゃって。
悲しみだけは表現できる、なんて本当最悪だよね。
あーあ、まいったなぁ。
終わり。
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