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 目の前のゆうちゃんが今まで見たことのない怒った顔をしていて、なんだかびっくりしてしまう。といっても、無表情な顔しか見たことないんだけどね!
 床に寝転がっている中田は、もう意識が沈没しているようで「ちくびぃ…ちくびぃ…」と寝言を言いながら、口をむにゃむにゃと動かしていた。
 ゆうちゃんはそんな中田に無言で蹴りを入れていた。三発目ぐらいまで「おーやれやれー!」とか俺も言っていたが、十発目でさすがに、寝ながら唸る中田が可哀想になって「勘弁してやってくだせぇ」と中田の代わりに土下座して置いた。

「こ、こんな中田のイカくせぇ部屋なんかでて、ゆうちゃんの部屋に行きましょうよ!」
「……分かった」

 中田の命を救おうと、そうゆうちゃんに進言すると、ゆうちゃんは俺の手を取って! 俺の! 手を! 取って! ベランダまで行った。

「あ、この向かいがゆうちゃんの薔薇の香り漂う素敵なお部屋ですね!」
「……さっさと渡れば」
「あっはい」

 ゆうちゃんの部屋と中田の部屋の距離は近く、運動音痴な俺でもひょーいと簡単に行けた。

「わあ! なんてすんばらしいお部屋! さすがゆうちゃんのお住ま」
「で、何考えてる?」
「…は? と、言いますと?」
「俺のパシりのくせに、仕事放棄したあげく中田といちゃつきやがって。どういうつもりだ?」

 オーウ…。なんということだ! ゆうちゃんは本当に怒ってるぞ。で、でもゆうちゃんがあんな女といちゃつくから悪いんだぞ! でもこわーい!

「あ、あの、し、仕事をほ、放棄といいますか、あの、ストライキ、させて、いただい、たのはですね、あの、理由がありまして、あの」
「俺から中田に乗り換えるためか」
「違います、あの、ゆ、ゆうちゃん様が、あの、屋上でアバズレと、ちゅーしてたからであります…。決して、中田なんかに目移りしたわけでは…」

 説明できた…! できたよお母さん! やった…! やったよ…!
 俺の話しを聞いて鬼気迫る顔をしていたゆうちゃんが、ポカーンとしております!

「…覚えてない」
「……な、な、なんですと…! なんですと…! この俺がゆうちゃんのために、ゆうちゃんのために! うんま〜い!デリシャスイチゴミルクとトロトロクリームパンとたべっこ動物を持って行ったのに! アバズレとのキスを優先した事を! 覚えていないですと! 遺憾だ! 誠に遺憾だ!」
「お、おい真太郎…」

 許せん…! 断じて許せんぞ…! 真太郎の堪忍袋のおが切れました!



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