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キリは生まれてから今までずっと一人だ。森の奥でひっそり、細々と暮らしている。
一人でいることに寂しさ、というものは感じたことがなかった。誰もキリに愛を教えなかったし、人と触れ合ったことのないキリには寂しさが何か分からなかった。
ただ、時々動物達のつがいや群れを見るたびに胸がきゅっと痛んだ気がした。
「今日は空が黒いのう…」
冬。キリは外に出て空を見る。空は雨雲に覆われていて、もうほんのすこししたら雨が降り出すだろう。
キリは小屋に戻り、食事を取る。
本当ならば今日キリは少し歩いて薪を取りに行こうと思っていたが、こう天気が悪いのでは無理だろう。
季節外れの雨にキリはため息をついた。
小屋は肌寒く、一刻も早く薪が必要だ。
「雨が収まったら取りに行くか…」
そう決まったらいつでも行けるように準備をしようと、キリはバタバタと動き出した。
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キリの住む森を下ったところに村がある。宗一郎はその村の長の息子で、早朝森に狩りに来ていた。
しかし急に雨が降り出し、視界が悪くなり道に迷ってしまった。
「寒いなぁ…」
雨によって濡れた服に体温を奪われ、宗一郎はぶるっと体を震わせた。
早く雨が止めばいいが、このままだと体調を崩してしまいそうだ。
どこか休めるところはないだろうか、と宗一郎は周りを探していた。
キリは四刻ほどたち雨が少し収まったのをみて、外に薪を取りに出た。
雨が降ったせいで木は湿ってしまっているだろうが寒さには敵わない。体が冷える前にさっさと拾って帰ろうとキリは思った。
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