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呆然とする俺に男は話しかける。
「坊主、こいつはな罪人なんだよ。本当の名前はヨウ」
「やめて!」
カナメは男に啜り付き叫ぶ。男はそんなカナメを手で乱暴に振り払う。
「…うっせぇなぁ。ちょっと黙ってろ。……んでな、こいつは罰を受けてるんだ。その罰を終えるには10の人間の魂を虜にしなきゃなんねぇ。お前はその10人目の被害者ってわけさ」
「い、意味分かんねぇ」
「ヨウはな昔、神木にいたずらしたんだよ。それで怒った神様に罰を与えられたんだ。己の姿を醜い木に変えられ、この夢の世界でしか本当の姿になれない。ほら、お前の家の庭にへんてこの木があるだろ? あれがヨウなんだよ。そして夢の世界にお前を引きずり込んだんだ」
「そ、そんな話し信じない!」
「ん、まぁいいよ。信じなくても。だけどお前は神木の糧になってもらうからな。さ、行くぞ。これでヨウの罪は償われた」
男は嫌がる俺を無理矢理担ぐ。じたばたと暴れてみるけど意味はなく、無駄な抵抗だった。
確かに俺の家の庭には一本だけ不格好な木があるけど、カナメがあれ? そんなの信じられないし、信じたくない!
「か、カナメ!」
カナメを呼ぶとぼうっと立っていたカナメがハッとして、男に引っ付いて止める。
「し、シンゼン、陽太郎を連れて行かないで!」
「あぁ? やっと10人目を見つけたんだぜ? 嫌だね。お前も元の生活に戻れるんだから万々歳だろ?」
「陽太郎はダメだ! すぐに他の人を見つけるから!」
「おいおい、何言ってんだよ。例外はなしだぜ。俺は忙しいんだよ、待ってられるか」
男は面倒くさそうにカナメを振りほどく。そして何やら唱えだした。カナメは地面に体を打ち付けてしまい呻いている。
俺は凄く不安になって一心不乱にカナメの名前を呼ぶ。
「カナメッ! カナメ!」
「シンゼン、やめて! なんでもするから陽太郎を連れていかないで!」
必死になってカナメに手を延ばしたけど届くことはなかった。
「ダメだ。分かっていただろう? 決まりなんだよこれは。ヨウ、こいつの魂はこれから冥府の神木に捧げられるんだ。そのかわりお前は自由になれる」
「シンゼンいやぁ…」
「愛さなければ良かったのに馬鹿な奴め」
カナメが泣いている。
俺はもう一度必死に手を伸ばした。
男がまた何か呪文みたいなのを唱えると、俺は男と光に包まれた。
「カナメッ!」
光の中カナメを呼ぶとカナメはくしゃくしゃの、顔を上げて手をこっちに伸ばしたけれどその手が届くことはなかった。
********
「陽太郎ー? いないのー?」
とんとん、とドアをノックするが部屋の主であるはずの弟の返事はない。
「開けるよ?」
最近は寝てばかりの弟。どうせ今日も寝ているのだろうと思い部屋に入るが、弟はいなかった。
「あー窓開けっ放しー」
窓から庭にある木の葉っぱが入りこんでいる。紅葉して紅く色づいている葉っぱは少し綺麗だけどかき集めて窓から捨てる。
そして窓を閉じようと庭に目をむける。
「ん…?」
木が一本ない。不思議に思い首を傾げる。母か父が切ってしまったのであろうか。…多分そうだ。少し変わった木だったし邪魔だったから切ったんだろう。
ひゅう、と風が吹き肌寒くなり窓を閉めて弟の部屋から出る。
「おかあさーん、陽太郎いなかったよー」
「あらそう。どこ行ったのかしらあの子はもう」
まぁどうせすぐ帰ってくるだろうと思い、私は弟のために夕飯のおかずを残して置いた。
end
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