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――恋をしている。会ったこともない人に。
いや、会ったことはある。ただ、それが夢の中というだけで。
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暑い夏が終わりやっと涼しくなってきた。学校から帰ってきた俺は自室のベッドに寝転がり目を閉じる。
特別疲れているわけではない。特に眠いわけでもない。ただ、夢の中であの人に会いたかった。
目を閉じてただ眠るにつくことだけを考える。自然に思考が停止していった。
「やぁ…また来たの?」
「うん」
どうやら今日もまた夢の中にやってこれたようだ。
夢とは思えないほどに鮮明な夢の中で、俺は一人の男性と会う。
「――カナメ、会いたかった」
彼、カナメは夢の中だけで会える俺の思い人だ。
「陽太郎、寝るのが好きなの? 頭とけちゃうよ」
「そう。好きなんだ、寝るの」
頻繁に会いにくる俺をカナメはクスクスと笑いながらからかう。俺はなんだかその笑顔がやけに眩しく感じて目を細めた。
「あのさ、カナメっていくつ?」
「え、年? 陽太郎よりかなり年上だなぁ」
「嘘、童顔なんだ」
「そう? そんなことないと思うけど」
俺とそう変わらない年齢に見えた彼は、実はかなり年上らしい。全くわからなかった。
「陽太郎は若いよね、まだ16だもの」
「もう16だよ!」
「あはは、皆そういうよね」
カナメからは甘い匂いがして、俺はその匂いが大好きだ。カナメが笑うと甘い香りがふわっとして心臓がドキドキした。
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