5
サデスSide
第一戦が終わり、皆が帰還してくる中僕は不安に包まれていた。
イシュアが帰って来ない。
帰っていたらきっと真っ先に僕の所に来るはずなのに。
なぜ、なぜだ。なぜ帰って来ない。
嫌な考えが頭をよぎる。
「サデスという名の者はおるか」
広間に怪我をした男がやってきてそう尋ねる。サデスという名前の持ち主は僕が知る限りは僕しかいない。
僕は立ち上がって彼の元へ向かう。
「僕のことでしょうか」
「わからんがサデスという名前の奴が君しかいなければそうだろう」
彼はそういうと、ポケットから一つのペンダントを出した。
「ある少年にこれを預かった。君に渡せと言われた」
「…これを?」
見たことのないペンダントだった。
僕は少し不思議に思いがらもそれを受け取る。
「………あ」
ペンダントの裏を見ると文字が彫られていた。“ハッピーバースデー 君の永遠の友 イシュアからサデスへ”
僕の誕生日は五日後だ。きっとプレゼントとしてイシュアが用意してくれたものだろう。
「こ、このペンダントの持ち主は…」
「……亡くなった。残念だ」
それだけ言って彼はでていった。彼も最前線にいたのだろうか、片足がなくなっていた。それでもきっと幸運なほうなのだろう。生きて帰ってこられた者は少ない。
「イシュア…」
君は死んでしまったのか。僕を残して。
もう君の明るい笑顔も、馬鹿げた冗談も、何も見ることも聞くこともできないのか。
だから、嫌だったんだ。本当は兵士になんかなってほしくなかった。無理して僕について来なくたってよかったんだ。
長官にだって逆らってほしくなかった。そんなことしたらどうなるかなんて目に見えていた。
なのに、なのにイシュアはいつも「サデスは俺が守るの!」って変に頑固で僕の言うことなんか聞いてくれなかった。
僕より年下のくせに、剣術だって下手なくせに、本当は僕より戦場が怖くてたまらなかったくせに、いつもいつもイシュアは、僕を守ろうとしていた。
だけど、もういない。
涙が僕の頬を流れ落ちた。
サデスSide終わり
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