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 僕は半ば衝動で家を出たけれど、戻る意志はもちろんなかった。
 そうなると養父にそのことを告げなければいけないと思った。でも嫌だった。このまま逃げれば、養父との関係も終わる。きぃちゃんを失った今、僕は全てから逃げたかった。あの夜、きぃちゃんが僕を見る目。きぃちゃんは僕を拒絶していた。
 だから僕は仕事も辞めて、文字通りなにもかも捨てて遠くへ行くことにした。
 全てを新しくして忘れ去りたかった。
 新しいアパートを探して小さな僕の城を手に入れる。壁はくすんでいて汚いけれど今の僕にはお似合いの気がした。

「・・・・・・きぃちゃん」

 持ってきた写真に写るきぃちゃんはこちらを笑顔で見つめてくれる。隣には僕と、死んだ父と幸せそうに笑う母がいる。
 写真の中にいる僕はとても輝いてみえるのに、鏡に映る僕はなんだか生気のない顔をしてこちらを見つめ返してくる。
 僕はただ悲しかった。どうしてこうなったのか。すべては明確だ。僕は選択を間違ってしまった。
 涙が止まらない。きぃちゃんに会いたくてたまらない。きぃちゃんがいない僕の人生など無意味なのに。




********



 なんの情熱もない日々だった。ただ時が過ぎていく。それでも僕は平気になった。小さな部品工場で働いて、一人暮らしには充分な小さなアパートで暮らしていた。
 小さな楽しみはきぃちゃん貯金だった。毎月きぃちゃんのために少額だけれど貯金をした。いつか、きぃちゃんに渡せる時が来たら・・・と夢をみて積み立てをしていた。
 仕事以外は外出することはなく、友達もできることはなかった。仕事仲間に誘われることはあったが、出かけるお金が惜しかったので全て断っていたらそのうち誘われなくなっていった。
 僕はそれで良かった。


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