5

 落ち着いて話したかった。帰り道歩きながら世間話でもするように話したくはなかった。
 翔一は三咲を家に連れて行くことにした。自分の安心する場所だったら、三咲に何を言われても堪えられる気がしていた。
 部屋に入って机を間に向かい合わせで座る。翔一は不安と緊張で心臓がドキドキとなっていた。
 もし、もし三咲がやり直したいというなら許してしまうかもしれない。三咲が好きで好きで堪らない。三咲が他の男とキスしたって、謝ってくれたら、もう翔一としかキスしないと言うなら許してしまいたい。三咲だって俺の事を嫌いになったわけじゃないはずだ。 翔一は半ば期待もしていた。

「…先輩はっきりいいますけど、俺が部室でキスしてるの見ましたよね?」

 三咲は翔一を見つめて言ったが、翔一はすぐに反らしてしまった。そして小さく頷く。

「すみませんでした」

 三咲は小さく頭を下げる。
 俺を傷つけたから? すぐ男に走ったから? もう俺のことなんかどうでもよくなったから? 何に対してのすみませんなんだろう。翔一は考えるのを止められない

「俺に会いにこようとしてくれてたんだよね。なのにあんなの見せちゃってごめん」

 翔一はなんだか三咲が見たことない人に見えた。こんなに冷静で落ち着いて話すやつだったんだろうか。頭のいいやつだということは分かっていたけれど、こんな時くらい狼狽えておどおどすると思っていた。今の三咲はそんな様子は微塵も感じられない。正反対の自分が馬鹿みたいで、翔一は三咲との距離を感じた。

「……先輩?」
「三咲は、俺に謝って、それで、どうしたいわけ?」

 言葉に詰まりながら翔一は吐き出す。

「……分からない。ただ、先輩を傷つけたから謝らなきゃと思って」
「……なんだよ、それ。やり直したいとか、そういうこと、じゃないのかよ?」
「……それは考えてなかった」

 顔にカーッと血が集まってくるのを翔一は感じた。衝動のままテーブルを叩く。

「なんだよそれ! 何がしたいんだよお前は! 俺の事どうでもいいなら謝ってなんかくるなよ!」
「どうでもよくなんかないよ」
「どうでもいいんだろ! どうでもいいから他のやつとキスだってできるし、ずっと俺と何もしなかったんだ! どうでもいいから謝ってるんだろお前は!」

 いつだって三咲に怒ると胸が痛んだ。三咲がつらそうな顔して黙っているから。今もそうだ。でも止められない。翔一は涙が出そうになるのを必死にこらえていた。
 三咲は俺の事なんか好きなんかじゃない。好きなのは俺だけだったんだ。そう三咲に訴えた。

「違うよ! 先輩の事は好きだ!」
「じゃあなんでキスしてくれなかったんだよ! 他のやつとはするくせに!」

 三咲はグッと黙ってしまった。翔一はついに泣いてしまった。乱暴に服の袖で涙を拭う。

「……先輩の事が好きだと思うよ。でも、特別かどうか分からない」

 三咲がそう言った瞬間、翔一は心がザックリとナイフで切られた気がした。



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