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「え?」
三咲は思わず聞き返した。
「だから、昨日木下先輩お前の事探してたよって」
友達に言われて動揺する。翔一は三咲に会おうとしていたのか。あんなことしてしまったのに。
「自主トレしてると思うって言っといたけど会えた?」
「……いや」
もしかして翔一は三咲を探して部室まで来ただろうか?
三咲は不安になる。昨日三咲は部室で前から言い寄ってきたサッカー部の先輩とキスをしてしまった。あっさりとしたものだったが、翔一が見たらショックどころじゃないだろう。
「まあ、いいや。昼休みにでも会いにいけば?」
「うん、そうする」
しかし昼休み、恐る恐る三咲が翔一の教室に行けば翔一は休みだと言われてしまった。
「いやぁ、あいつさぁ昨日グラウンドで泣いてさー。俺が投げたボール当たったせいかと思って焦ったよ」
「え……」
「俺のせいじゃないみたいだけど、ずっと泣いてるから送ってったんだけどそれでも泣いてるんだよな」
しまった、と三咲は思った。翔一は見たのだ。だから泣いていたにちがいない。
三咲は頭を抱えた。
翔一だけには見られたくなかった。
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昼休み、窓の外をぼーっと翔一は眺めていた。
校庭で誰かがサッカーをしている。その姿が三咲とかぶって翔一は目を伏せる。
ため息が止まらない。
「木下ー、後輩」
「ん?」
クラスメイトに言われて振り返ると、教室のドアのところに三咲がいた。翔一は驚いて体が固まった。
行きたくないが、この状況では居留守も使えない。
「……なに?」
「と、友達に一昨日先輩が俺の事探してたって聞いて…」
何故かおどおどしながらこちらの様子を伺うように話す三咲に翔一はイライラする。
思いだしたくないこともよみがえってくる。
「それで、昨日教室来たんだけど、先輩休みだったから…」
翔一が無言で見下ろしてると、三咲の顔がどんどん白くなっていく。
「あの、それで、せ、先輩は何の用だったのかと思って……」
「別に」
「え……」
「あの時はお前に話があったけど、今はない」
そう言った瞬間、三咲は可哀想になるほど悲壮な顔になる。
しかしそれを見て翔一はさらに苛立ちがつのっていく。
「もういい?」
「えっ……いや、先輩、お、俺、話が…」
「なに?」
三咲はゴニョゴニョと「いや、ちょっとここじゃ…」と言う。
「じゃあやだ」
「え…」
翔一に断られ、三咲が言葉を詰まらせていると翔一はさっさと自分の席に戻ってしまった。三咲はもう一度声をかけることができるわけもなく、その場を去った。
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