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「うん、敵が近い!」

 そして決戦当日。
 下手だった剣技は血の滲むような努力によって上手になり、筋力もついて鎧を着ても軽々と歩けるようになった!やった!
 …ということはない。一つも。
 俺は相変わらず下手なままだ。大体短期間でそう変わるかってんだ。変われるならとっくに変わってるっちゅーに。

「第一陣! 戦闘準備!」

 前を歩く隊長の声とともに剣をぐっと構える。
 いまなら空も飛べる気がする。

「行けぇ!」

 うひぃ! 死にたくないけど行くぞ!
 ズルズルと鎧を引きずりながら敵へ向かう。

「うりゃあ!」
「うわぁ!」

 あれ? いけるんじゃない?
 わははは。やはり俺に不可能なことなどないよう

「てりゃっ」
「だあァァァァアっ!」

 う、後ろからとは卑怯なっ!いつのまにいたんだよ!
 俺はそのまま地面に倒れ込む。
 な、なんだ背中がすごく熱いぞ。触るとぬるっとした液体が…
 って! 血! 血! 血がでとる! 血がでとる!
 う、嘘だろ…もう死ぬのかよ。

「……サ…デス!」

 なんだかこ、声が出ない。目もぼやけてきた。
 なんだよ。早過ぎるよ。俺まだ16歳なんだよ。童貞なんだよ。卒業してーよ。おっぱいに触りたかったよ。
 頭の上では人達が争う音がする。…ような気がする。耳もよく聞こえなくなってきた。 え、なに死ぬの? 死ぬの俺。
 開始から10秒で死ぬとか笑えないぜ。

「おいお前! 大丈夫か!?」

 あぁなんと優しいお方。声をかけてくださるなんて。

「こ…れを……サ…スに!」

 胸のペンダントをそのお方に渡す。
 よく聞こえなかっただろうが頼む。すべてはお前にかかっているぞ。サデスに渡せよ、それ。パクるなよ。パクったら恨むぜ。

 あぁサデス。ヒーローはだめだった。10秒ももたなかったよ。貧弱だったんだ。

 もう目を開けていられなくて俺は目を閉じる。
 あんだけ、大丈夫だとか不死身だとか大口叩いといて結局死ぬのかよ。サデス、ごめんな。サデスの言う通り一発で死ぬみたい。
 本当、ごめん…。弱くてごめん。馬鹿でごめん。死んでごめん。…まだ死んでないけど。

*********

 少年はもう考えることもできなくなった。
 そうしてまもなく少年は息を引き取った。

 イシュア=ミヒは16年の生涯を終えたのだった。



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