4

 グランドには三咲の姿がなかったので、翔一は部室に向かった。
 翔一は部室の窓からこっそり中を覗くと、三咲が中にいるのを確かめた。三咲は翔一と同じ学年の男と二人でいた。二人はとても仲良さそうで、翔一はムッとした。
 男がいなくなるのを待っていた翔一だが、なかなか三咲は1人にならない。イライラし始めた翔一が、ええい声をかけてしまおうと息を吸った時、三咲と男の顔がぐっと近くなり二人の唇が重なった。
 あっ、と声が出そうになるのを翔一は手で押さえた。三咲に嫌がってる様子はなく、むしろ積極的だ。
 翔一はショックで、顔が真っ青になる。

「お前木下と付き合ってるんだろ?」
「……あぁ、でも昨日振られちゃったよ」
「へぇ、あいつお前に夢中って感じだったのに」

 そうだ翔一は三咲に夢中だ。女の子みたいな可愛い顔をしてるくせにサッカーが上手いところに翔一は心底惚れていたのだ。

「でも、多分もうだめかな…殴っちゃったし」
「ふぅん」

 そんなことはなかったのに、と翔一は思った。
 でも翔一は見てしまった。自分とはあんなに嫌がったキスを、同級生とは普通にしていた三咲を。
 翔一は三咲のことが好きで好きで堪らなかったけど、三咲は違ったのだ。好きだったらキスは嫌がらないし、喧嘩した次の日に他の男とキスしたりなんかしない。俺のことなんか遊びだったんだ、翔一はそう思った。
 翔一は帰ろうと踵を返した。だけれど足取りは重い。どうして俺とのキスはあんなに嫌がったんだろうか。
 グランドの隅を歩いていると、野球部のボールがこつんと翔一に当たる。

「あ、すみませ……えっ」

 ボール拾いの少年が翔一を見てギョッとする。

「い、痛かったですか、うわ、どうしよ、せんぱーい!」
「なんだよ、あ、木下じゃん」
「ぼ、ボール痛かったみたいで………その、泣いちゃってるんです」

 ボロボロと涙を流す翔一を困ったように野球部員は見つめる。


「そ、そんなに痛かったのか木下? 保健室行くか? まいったなぁ」

 翔一は頭を横に振る。
 ボールの当たった頭は対して痛くない。
 ただ翔一は胸が痛くて痛くてが堪らなかった。
 まだ、三咲のことが好きだ。


end



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