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木下翔一に恋人ができたのは三ヶ月前のことだ。
半年前翔一は、友達が所属するサッカー部を何となく見学に行った際、ボールを追いかける中宮三咲を見て一目恋に落ちたのだ。それから翔一は、自分が帰宅部で暇なのをいいことにサッカー部の応援に毎日通いつめ、三咲をひたすら見つめていたのだ。
しばらくすると、見つめるだけでは物足りなくなった翔一が三咲に声をかけ始め、恋に落ちてから三ヶ月経った頃に翔一は生まれて初めて自分から愛を告白したのだった。
「す、好きだ。つ、付き合ってくれ!」
ぶっきらぼうだが、顔を真っ赤にする翔一を三咲は数秒見つめ頷いた。
「……俺も、先輩のこと好きです」
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それから三ヶ月、二人はいまだにキスもしていなかった。
そういう雰囲気になりそうになるたびに、三咲は逃げてしまうのだ。
翔一はそんな三咲に不安を抱かずにはいられない。
「本当は俺のこと嫌いなんだろ」
しかしふてくされた翔一がそう言うと、三咲はいつも全力で否定するのだ。
「ち、違う、ちゃんと先輩のこと好きだよ!」
「じゃ、じゃあなんでキスさせてくれないわけ?」
「それは…その、俺…キスが苦手で…」
シュンとする翔一に三咲はそう言うが、翔一は納得できるわけなく怒ってしまう。
「なんだよ! キスもできないなんてそんなの、つ、付き合ってるなんて言えないだろ!」
「先輩…」
「もうお前とは別れる!」
怒った翔一はいつもそう言って三咲を置いて帰ってしまう。
けれど家に近づくにつれて、翔一の心をチクチク後悔と罪悪感が襲ってくるのだ。
大きな目を悲しそうにして自分を見ていた三咲を置いてきたことや、怒鳴ってしまったことが翔一を後悔させる。
なんだかんだいって翔一は、キスもさせてくれない三咲が可愛くてしょうがないのだ。
「あの、俺だけど……さっきはごめん。やっぱ、好き…」
翔一は電話越しに謝って、また二人は元通りになる。これが三ヶ月間繰り返されていた。
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