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中田の息遣いが分かるほど近くに来て、もうダメかもと目を瞑ったのにキスはやってこない。
あれ? と目を開けるとそこには顔を足で踏み潰された中田が!
まぁ誰がこんな酷いことを……! と顔を上げて犯人を見ればゆうちゃんだった。
「ゆうちゃん!」
「なにやってんだよ馬鹿」
ゆうちゃんに引っ張られた俺は立ち上がる。
「だって中田が…」
「いいから服着ろ」
「う、うん…」
なんだかゆうちゃんは怒ってるみたいでとっても怖い。
俺は急いで服を着る。
「さっさとこんな部屋出るぞ」
「あ…」
ゆうちゃんに手を引っ張られて、いつかと同じように窓からゆうちゃんの部屋へ。
ちらりと後ろを振り返ると中田は意識を失ってるようだった。成仏してくれよ。
「ったく、世話焼かすなよ」
「う…うん。でも中田は愚痴聞いてくれただけだよ…?」
「お前に変態しようとしてだろ」
へ、変態……
ま、まぁ中田って確かに中年セクハラ親父みたいな雰囲気の変態っぽくはあるけど。
「じゃ、じゃあ代わりにゆうちゃんが話聞いてくれる?」
「はぁ?」
「…嫌なんだ? だってゆうちゃんが相手してくんないなら俺の相手してくれるの中田しかいないんだもん」
ゆうちゃんをそっと見つめるとため息をつかれた。
「わかった、だからもう中田と酒は飲むなよ」
「ほ、本当!?」
「あぁ。お前ってちょっと目を離すとすぐフラフラするからな」
俺が監視しとかないとな、とゆうちゃんが笑う。すぐフラフラしちゃうのはゆうちゃんでしょ。
でもそんな風に笑うとこ見るとすごくドキドキする。
「ゆ、ゆうちゃん」
い、今なら良い雰囲気だしゆうちゃんとファーストキス…できるかも…。
ゆうちゃんに顔をそっと近づける。
「あー、すっきりした。あれ、何してんの?」
ここで女男…! なんでだよ!
「なんで入ってくんだよぉ! このオカマ野郎ぉぉぉ!」
「は? なんなんだよお前!」
せっかく後もうちょっとでゆうちゃんとキスできたのにぃ!
「馬鹿馬鹿ぁ! お前のせいだぁぁぁ!」
「意味わかんねぇよ! ちょっとゆう、こいつどうにかしてよ!」
無我夢中で女男に噛みついてると、ぽんとゆうちゃんに肩を叩かれた。
振り返ると、唇に暖かい感触。
「……これでいいだろ? 落ち着け」
い、今のって……
「やっほぉぉぉぉい!!!」
ゆうちゃんとキスしちゃった!
はじめてーのチュー、ゆうちゃんとチュー! 真太郎ちゃんハッピーうれぴー!
嬉しくて踊っちゃうもんね! マンボッマンボッ!
「………ゆう、なにこれ?」
「酔っぱらいだ、気にすんな」
やったぁぁ!
ゆうちゃんとキスしたぞ!
んふふ、やっぱりゆうちゃんと俺は相思相愛、愛し合っちゃってるのさ!
「ゆうちゃん愛してるぅぅ!!」
「はいはい」
嬉しくてゆうちゃんに抱きつくと頭をぽんぽんしてくれた。
うっひょおおお!! 俺、幸せ!
*****
しかし次の日、俺は二日酔いと結局ゆうちゃんにべたべたする女男に悩まされることになった。
「なぁ真太郎、俺なんか顔が痛くてさぁ」
「な、なんでだろうね?」
で、でもゆうちゃんとキスできたし俺幸せだよ!
「ゆう。ほら、あーんっ」
「こ、このオカマぁぁぁ! ゆうちゃんから離れろぉぉぉ!」
し、幸せだよ………多分。
end
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