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深夜、羽音を起てないように小さく羽を動かして飛びながら周りを見渡す。
よし、大丈夫だ。
父さんも母さんも姉さんも寝ている。ふっふっふ、最近俺が大人しくしていたから油断しているな。
玄関までソロリソロリと泥棒顔負けの動きで無事たどり着き、さあいざいかん! と扉を開ける。
バレないように静かに扉を閉めて、思わず笑いがこぼれる。
やったぞ!
はっはっは、と声が出そうになり慌てて口を手で押さえる。
「危ない、危ない、見つかっちゃうとこだ──」
「ムーシャ」
「えっ!」
振り返るとそこには死んだ魚の目をしたチェルがいた。
「な、なんで…」
「こんな夜中にどこに行くんだ?」
「え、あ、そ、それは…」
「聞かなくても分かってる。行かせないからな……」
じゃあ聞くなよ。とは言えず……
結局、今夜も俺はユコフに会えずにいた。
******
最後にユコフと会ったのは、確か二週間前。三日後に会おうと約束したが、父さんに阻止されそれ、じゃあその次の日に会おうとしたら母さんと姉さんが邪魔をしてきた。
むむむ、とこれじゃあユコフに会えないじゃないかと俺は唸る。新しく発見した体位を試したかったのに。
ユコフは夜にしか森にこれないらしいから、またその次の日の昼に俺はこっそり森に来て、いつも落ち合う場所に手紙を書いた。
カゾクガジャマヲスルタメコレナイ。ゴメン。シバラクアエナイカモ。
翌日森に行くと返事があった。
デハニシュウカンゴニマタアオウ。
えぇ、二週間って長くね? と思ったけどまぁそんくらい長ければ父さん達も張り込みに疲れて油断するかもと気付いた。
そして案の定、父さん達はすっかり俺があきらめたものだと思い、グースカグースカ寝ていたのだが…
「チェルゥ……」
「だ、め、だ!」
その代わりチェルが待っていたのである。いやー。
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