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 ──行かないで下さい、貴方がいないと生きていけない。

 昔、恋人が泣きながら俺にそう言った。
 仕事で南部に行くことになった俺は恋人と別れた。
 愛していたけど、以前恋人の母親に別れて欲しいと言われたこともあって良い機会だと思った。
 親というものがいない俺にとって、泣きながら懇願する母親を見るのは胸が痛んだ。こんなにも子供のことを思っている人の願いを断るのは辛かった。
 だけど断った矢先に仕事が決まり、俺は恋人と別れることにした。

 ──ショーン! 嫌だ!

 綺麗な顔をぐちゃぐちゃにして恋人は俺にすがってきたけど、俺は冷たくあしらった。やつが地元を離れられないことは分かっていたし、恋人の顔を見るたびに恋人の母親の顔がちらついて罪悪感で一杯になった。やつによく似た綺麗な人だった。いや、やつが似ていたのか。

 ともかく俺は南部に行った。新しい恋人も何人かできたが、なぜか長続きしなかった。だけど別に気にしてはいない。相手にこだわりはなかった。
 仕事はすこぶる順調だった。いつの間にか昇進して、部下が沢山できた。

 そうして五年ほど経った今年、地元の友達から連絡があった。
 元恋人の母親が病気で亡くなったらしい。
 俺は驚いた。最後に会ったときはとても元気そうだったからだ。泣いていたけれど。だけどそれは五年も前だと気付いてまた驚いた。そんなに時が経っていたとは。
 俺は葬式に出るために仕事を休み、飛行機で地元へ向かった。
 ここに来る時は周りに沢山人がいたのに、今はゆったりと広いスペースに俺1人だ。飛行機のクラスが俺の変わった生活を物語っていた。

 葬式には沢山の人が来ていた。元恋人の家は地元の名家だから当たり前だが。
 旧友と挨拶を交わしながら、俺は席に着き葬式が始まるのを待った。

 ───久しぶりに見た元恋人はあまり変わっていなかった。表情は暗く悲しげだが、姿は昔のように儚げで美しかった。
 元恋人は父親と寄り添いながら立っている。彼の父親は随分白髪が増えていた。



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