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男は私に恥辱の限りを尽くした。
「わんちゃぁん、お手はできるかなぁー? お座りはー?」
やつはことあるごとに私を犬扱いするのだ!
「私は犬ではない! 誇り高き魔獣なのだぞ!」
「はい、じゃあお散歩に行こうねぇ」
「聞いてるのか!」
私はあくまで犬型の魔獣であるだけであり、犬ではない。
しかし男は私が何を言ってもどこ吹く風で何も聞き入れてくれない。
「おい! 待て! 待たんかこら!」
「ぼくの名前はレイスって言うの。だからレイスって呼ぼうね!」
「ではレイス! 待て!」
「いーや!」
男はレイスと名乗った。
やつはどうやら魔族で城の主人らしい。沢山の魔族や魔者がやつのしもべとして城で働いていた。
中には私と同じ魔獣の者もいたが、皆やつに妄信的で「レイス様に気に入られるなんて光栄なことなんですよ!」と頭のおかしい者ばかりだった。
「さ、みんなにわんこちゃんをお披露目しなきゃ!」
「……じゃない」
「え?」
「私はわんこちゃんじゃない! 私の名前はキンラだ!」
いつまでもわんこと呼ばれるのが嫌で私が名前を告げると、男は目を丸くしてパチパチとまばたきをした。
そしてまたにんまりと笑うのである。
「そっかぁ〜! キンラかぁ! 可愛い名前だねぇ!」
「可愛いくなどない! 雄々しい立派な名だ!」
亡き父がつけてくれた名前だ。可愛いと言われたことが気に入らない私はしっぽで男の尻を叩いた。
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