16
そのことに気がついた瞬間、ユーシスの顔は青ざめる。
「あ、嘘だ……」
「やっと分かりました?」
「だけど…なんで…」
「そんな手いくらでもありますよ」
そう言ってデニスがユーシスから離れると、ユーシスはほっと息をついた。
「そ、それに君、普段と全然雰囲気が違うし…」
「そりゃあ変えずにいたら、バレてしまうかもしれないでしょう?」
ユーシスの前にいるデニスは普段のとろとろした雰囲気はなく、喋り方も吃りが消えている。
「ねぇ先輩、この事誰にも教えちゃダメですよ。分かるでしょ?」
デニスは何かを小さく呟くと、そっと呪文の浮き上がる手のひらをユーシスの胸に押し当てる。
「あ……!」
「それじゃあ僕、もう行きますね」
デニスはユーシスから手を離すと、早々にその場を離れる。
ユーシスは焦って胸を触るが、異変は感じない。
「ま、待って! あの机は君がやったの?」
「さぁ。……それより先輩、お湯沸いてますよ」
「え、あ、うわっ!」
ポットをみるとお湯が吹き溢れそうになっている。ユーシスは慌てて火を止める。
「あちちち……あ、デニス君……もういない……」
その場に既にデニスは居なく、ユーシスは呆然と立ちつくした。
*****
ユーシスは部屋に戻ると深くため息をついた。
「あの顔は……そんなまさか…」
「ただいま」
と、ニリアが部屋に帰ってきた。ユーシスは慌てて顔をパン、と叩くとにこりと笑顔を作った。
「おかえり」
「あぁ、腹ペコだよ。なんか食べよう」
「う、うん」
ユーシスはニリアを食堂に誘って部屋を出た。
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