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「……それだけ言いたかった。それじゃ、また」
「あ、待って!」

 少し悲しそうに微笑んだユーキルはそう言ってこの場を立ち去ろうとした。ユーシスは慌ててユーキルの腕を掴み引き留めた。
 あんなに誠実に謝ってきた人をそのまま帰しては行けないと思ったのだ。

「……なんだ?」
「良かったらその、お茶でもしませんか?」
「え…」
「私達、仲良くなれると思うんです」

 そっと伺うように聞いてくるユーシス。憧れのユーシスからの誘いを断る真似などユーキルがするはずもなかった。

*******



「481、482、483……」

 ニリアは剣の素振りをしていた。長時間の鍛練で汗は絶えず流れ、腕は鉛のように重かったが、剣を握っていると頭の中が空っぽになり嫌なことを考えずにすんだ。
 アイーヌへの燃えるような嫉妬心。自分の気持ちに気付かず、鈍感なユーシスへの苛立ち。何よりも、変化を恐れ何も行動することができない臆病な自分。
 ニリアはストレスに押し潰されそうだった。だけどニリアにはユーシスの執事という仕事がある。ユーシスを支え将来彼を立派な家主にし、自分もユーシスにふさわしい人間になる。ニリアもまた努力しなければいけないのだ。
 やらなきゃいけないことは沢山ある。悩んでいる暇などないのだ。

「498、499、500…!」

 ニリアはずしん、と剣を床に落とす。肩で息をするニリアの目は少し濁っていた。



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