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 そして、ニリアが笑顔でユーシスを見送ってから1ヶ月。

「あぁ! またやってしまった!」

 ユーシスは悲痛な声で叫んだ。
 ここ1ヶ月ユーシスは会長としての仕事を一生懸命にやっているのだが、ミスがどうも目立っていた。
 就任したばかりだからと見過ごせるようなものばかりでもなく、ユーシスは会長として苦戦していた。

「キリクボート、今度はなんだ」

 そんなユーシスに、少し呆れた声で聞くのは上級三年生のアート=フェリミルだ。
 燃えるような赤毛にストイックそうなつり目の顔立ちが人気の生徒会副会長だ。アートは下級生の時から生徒会の補佐として長年仕事をしてきたため、大ベテランだった。

「アート先輩! 実は提出書類の宛先を間違ってしまったんです! 魔術研究部に送るはずが黒魔術研究部に!」

 半泣きになりながらユーシスがそう言うと、アートは深くため息をついた。

「なぜ、どうしたら間違えるんだ……。しかも、黒魔術研究部だと?」

 アートは軽く頭を押さえながらユーシスを見る。ユーシスは不安げにアートを見上げた。

「……両部に行って、謝罪して書類を取り替えて来い。黒魔術の部長はタチが悪いから気を付けろ」
「はい、いってきます!」

 ユーシスは大急ぎで生徒会室を出た。

「あ〜あ、いいんですか? あそこの部長ってタチが悪いどころか、激ヤバだと思うんですけど」

 ユーシスが出ていった扉を見つめながら言うのは、会計と書記を務める上級二年生のソモル=チャンソだ。その優秀さに異例の役職2つを掛け持ちし、眼鏡をかけた可愛らしい顔でいつも笑みを絶やさないことからファンの間からは「微笑みの天使」と呼ばれていた。

「まぁ……キリクボートにはシュンミがついているし大丈夫だろう」
「あぁ、彼かぁ。確かにニリア君がいれば安全ですね」

 アートとソモルは、いつもユーシスの傍にいるニリアを思い浮かべ、安心したように仕事を再開した。


 その頃ユーシスは、魔術研究部から書類を受け取って次の黒魔術研究部に向かっていた。

「すみません」

 ユーシスは部室の扉を叩いた。
「はあい」

 すると中からだみ声の返事が返ってきた。
 アートに注意されたこともあり、ユーシスは内心ドキドキしながら扉が開くのを待った。

「なあに?」

 中から出てきたのは黒い法衣を着て、これまた黒い髪で顔が口しか見えない男だった。

「あ、私は生徒会のキリクボートです。実は先程誤って魔術研究部の書類をこちらに送ってしま──」
「ああ、あれね。あるよ、入れば?」

 ──ユーシスの声を遮って男は話しを進めた。
 男が扉を開けてくれたため、断るわけにもいかずユーシスはおずおずと黒魔術研究部の部室に足を踏み入れた。



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