■ ちゅっちゅっ

弟よ、愛しい弟よ。
 今、お前はきっと私への怒りで満ちているだろう。
 しかし許して欲しい。私はもう限界なのだ。
 お前も気づいていただろう。私がこうすることには。


 あれはいつのことだったか。私がお前に冷たい時があったな。
 あの頃の私は常にお前への罪悪感と憎しみで一杯だった。
 しかし小さなお前は私の歪んだ思いなどには気付かずに、いつもにいちゃにいちゃと私の後をついてきていたね。
 お前のあどけない笑顔を見るたびに私は、自分がこの世の中で一等非道な人間のように思えた。
 あの頃、私はお前の母とうまくいっていなかった。母を亡くしたばかりの私は妾だったお前の母を好かなかったのだ。
 まだ十になったばかりの私にはお前の母が酷く汚らしいものに見えていた。まぁ、実際そうであるが、あの頃のお前に強く当たってしまっていたのはそういう訳があるのである。
 この手紙を書くに当たってこの昔話を思い出したのだが、お前は覚えているだろうか。


 さて…今回、私がお前に手紙を書くことに決めた理由は、お前が私とお父さんの関係を知っていたからだ。
 お前が気づいていることには、気づいていた。しかし、あえてこのことを言う必要はないと思っていたのだが、事情が変わったので仕方がない。お前も分かっているだろう? お前が悪いのだよ。
 まさかお前が言うとは思ってはいないが、お前の母に私とお父さんの事を言ってはいけないよ。私の墓を荒されたらたまらないからね。もちろんお前と私の事も言ってはいけない。お前が私の後を追いたい気持ちはわかるが、言ったらきっとお前の母はお前を一生どこかへ閉じ込めてしまうだろう。


 あぁ、それと。私の衣服や持ち物は捨ててしまって構わない。といっても、お前はきっと大事に取っておくだろうね。
 私の金魚達は捨てたりしないでおくれよ。お前と行った夏祭りの金魚掬いで取った金魚達が沢山いるからね。
 植木もちゃんと育てて欲しい。面倒臭がりのお前にはちょっと難しいだろうがきちんと世話を頼むよ。


 そして最後に、最愛の弟よ。
 私が誰よりもお前の事を愛していることを忘れないでほしい。
 私は決してお前のものにはならなかったが、私はお前のことを愛している。それは確かだ。
 いつか、お前が私の元へ来るのを待っている。



******



 あるところに腹違いの兄弟がいた。兄弟の家族は歪んでいて、幸せな家庭には程遠かった。
 兄は父親に幼い頃から犯されていたし、弟は母親に常に監視されていた。
 兄弟が大人になったころ、弟はやっと兄と父親の関係に気付いた。
 弟は兄を愛していたあまり、怒って兄を犯した。兄はわけも分からず弟に犯された。そして、それは何度も続いた。
 兄は弟に手紙を書いて、身を投げた。弟と関係を持ってから半年ほど後のことである。
 弟は兄の死に、ただ呆然としていた。


 兄を死に追い込んだのは誰か。
 愛人を何人も作り、幼い兄を犯した父親か。
 兄の母親を死に追いやった、弟の母親か。
 兄を愛してしまった弟か。
 それとも全てを諦めた兄自身か。

 それは誰でもあった。皆が皆をそうさせたのだ。全ての因果が皆にあった。
 ただ、弟は兄は不幸ではなかったと分かっていた。愛されることの喜びを兄は知っていたのだから。

終わり。

本当にすみませんでした!


2012/10/22 17:13
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