■ たぶん、天使

 しかしそんな僕らを面白く思わない人たちがいる。薄井君を率先して苛めている人たちだ。
 中でもリーダーである杉下君はとてもやっかいだ。彼はただの人ではない。
 彼はとても美しく、その美しさと魔性の言葉で周りの人々を魅了し、操り、堕落させる悪魔なのだ。
 彼も僕と同じく使命を抱き人を堕落させている。
 悪魔っていっても実際には違って、他にいい呼び方がないから─これも僕と同じ─そう呼ぶだけなんだけど、悪魔ってのは人にとって魅力的ですごく惹かれやすい。あまりの美しさに人は悪魔だと気づかない。だから杉下君はとても慕われているし人気者だ。
 杉下君はクラスメイトを堕落させようと目論んでいるのである。杉下君の言葉に操られ苛めをするクラスメイトの心はどんどんすさんでいく。
 僕は薄井君が今のターゲットではあるが、本当はクラスメイトの皆も幸せにしたいわけで今の状況はあまりよろしくない。

「無駄だぜ」
「うるさいなぁ」

 昼休み、先生の言い付けでノートを運んでいると杉下君がってきて僕に言う。

「学校ってのは本当に良いところだな。皆簡単に堕ちる」
「そんなことないよ、皆良い子だよ。君なんかに堕落させたりしない」
「言ってろ。お前は薄井で手一杯じゃないか」
「甘いね! 僕だって考えはあるんだ」

 杉下君はふんと鼻で笑うと去っていく。
 そう僕だって考えはあるんだ。

******


 お母さんのご飯が不味いことで悩んでる子のためにお母さんを料理教室に通わせたり、成績が上がらなくて困ってる子には良い参考書を教えてあげたり、ほんの少しの幸せに繋がることを放課後走り回って僕はクラスメイトに与える。
 犬を飼いたがって子には犬を、肌荒れに悩んでた子にはにきびを一つ消してあげたり、そんな小さなことだけど、彼らの心は明るい光がポッと咲く。

──お母さん料理うまくなったね!
──やった、テストで90点も取っちゃったわ!

 皆の笑顔が浮かび僕は嬉しくなる。
 これで少しは杉下君の影響を抑えられたはずだ


2014/03/08 17:27
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