2012年作品
※この夢小説のヒロインは元暗殺者、盲目設定です。
そっと暖かい日差しに包まれた感覚。もう朝なのかもしれない。
わたしは鳥の声が響く森の中重い足を動かした。負傷した腕がずきりと痛む。目なんてもう、使い物になっていない。感覚だけで足を進めていると葉が擦れるがした。誰だろう、此処がどこかわからないから余計に殺気立つ。私はこんな暖かい場所なんかに居たくないのに、私には冷たくて暗いあの部屋が、
「誰だ」
恐らく二人。背後から僅かにぴりりと殺気が私の肌を突き刺す。
どうすればいいか。私は”此処”で人に出会ったのは初めてだ。言葉が通じるのが奇跡的だったから、少し安心はしたが、もしかしたらこの人たちが私を処刑する人なのかもしれない。だったら言葉が通じても納得はいく。ふと、この怪我を負ったときのことを思い出していると、重く冷たい声が鼓膜を揺らした。
「なぜ何も言わない。どうしてここにいる。」
どうしてここにいるか、そう問うて来るということは彼は無関係…なのか。
逃げても無駄だ、いっそ殺されるように仕向ければ、
「あなた、怪我をしているのですか?」
控えめな、けれど警戒心はむき出しなその声は女性のものだった。どうか見捨ててほしい。その願いは、簡単にも打ち砕かれてしまった。女性、というにはまだ早いくらいの声を持ったその人は、私の怪我をしていない方の腕を取り、歩き出した。
「モルジアナ、」
重く冷たい声。男性のほうが少女の名前と思われるものを呼ぶが、この人は優しくも頑固なようで。
「マスルールさん、この人を王宮で手当てしてもらいましょう、あまりにもこの怪我は酷すぎます。」
その言葉に、マスルール、と呼ばれた人は無言で後ろからついてきた。私が害を与えない(むしろ与えることが不可能)だと認識したためだろう。
しかしながら、これには本当に困ってしまう。”王宮”ということはこの二人が王の従者かなにかだと伺える…元暗殺者を簡単に入れてしまってもいいのか、否、彼らはそれを知らないし何より私はもう武器すらまともに持てないから、王を狙うなどということはしないけれど…
明るい時間に入るというこの行為が、私を緊張させているのかもしれない。
裸足の私の足をひんやりと冷やす床、どうやら本当に王宮に来てしまったようだ。
無言が続いているのにもかかわらず、わざわざ私の手をひっぱり、足元まで気にしてくれるこの子は、本当に優しい子だと、心が温まった。私なんかが優しさを受けてはいけないはずなのに…私はじんわりする心を抑えた。
昔から、暗殺者として何かが足りなかった。子供が殺せない、親子が殺せない、人を殺めて後悔したり…それは過去に仲間であり大切で大好きだった友人を失ってしまったからだろう。
彼は無口で名前すら教えてくれなかった。私の名前を彼は知っていたのに、彼は私に名前を教えてくれなかった。銀色でさらさらとした髪、触らせてはくれなかったけど、きっと撫でたら気持ちよかったんだろうな、とても強かった彼は、任務失敗をしてしまい帰ってこなかったけれど。
そんな昔のことを懐かしんでいると、突然手を引っ張っている子が足を止めた。
「いすがあるので座ってください」
膝裏に冷たい感触。言われたとおりゆっくり足を折ると、医務を担当しているらしい人が、手当てを始めてくれた。少女達は気を使い席を外してくれた。
こんなにも丁寧に扱われたことが初めてで、緊張と恥ずかしさで落ち着かなかった。
早く目が開いたら、明るい世界を見られたら、なんて思っていたけれど、
現実は罪人に優しくなかった。
「残念ですがあなたは、もう二度と目を使うことができないでしょう。」
…ああ、今まで人を殺めてきたからこれは仕方のないことだろう。こんなことで許されるはずはない、私はもっと苦しまなければいけないはずだ、これで済んだら軽すぎやしないか。
私が捨てられこの場所に来たのは今までの報いを受けるためなのかもしれない。この暖かい世界で汚れてしまっている心で、精一杯残りの命を削って償い続けていくしかないのだろう。盲目になってしまった私にこの世界でできることは何なのか、考えなければならないな。
死ぬことだけは、許されていないようだ。
[罪の代償]
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