「大丈夫ですか?」
治療中、席を外していたあの少女が、わざわざ来てくれた。
「はい、ありがとうございました」
そう言うと、黙ってしまう彼女。どうかしたのだろうか、
「初めて…声を聞きました」
確かに私も久しぶりに声を出したような気がした。ということは、まだ彼女に名乗っていないではないか。こんなにも優しくしてくれたのになんて失礼なことを。
「…自己紹介をさせていただけますか?」
そのとき、ちょうど扉が開いた。
「モルさーん!」
「待たせたなモルジアナ!」
二つの声が部屋に響く。子供の声と、高めの声で恐らく私と同じぐらいかもしくは年下と思われる男声。親しげなその声のトーンから恐らく二人は少女の友達か何かではないのかと簡単に予測できた。
「その女の人が森でであったって人か?」
「そうです」
少女が説明をしていると、突然膝の上にずしりという重みと、近くで聞こえる高い声。
「おねえさん、ふわふわだねぇ!」
「!?」
「あ、アラジン!その人は怪我人だぞ!」
激しいスキンシップをされ困惑していると離れていく重さ。多分、どちらかの人が離してくれたのだろう。
「どうもすみませんでした、俺はアリババ・サルージャ!よろしくおねがいしますね!」
敬語を使ってくるあたり、私の方が年上だと伺える。私も名乗らなくては、
「私は名前です、よろしくお願いします。」
そういうと沈黙が流れた。どうしたのだろうか。暗殺者としては名も知られていないから特にそういった心配はしていなかったが、なにか…
「おねえさん、もしかして目が見えないのかい?」
「?あ、そうなんです。ちょっと怪我をしてしまって…」
空気が凍ったような気がした。
あの時、毒か何かが目に入ってしまったらしく視力を失ってしまったようで、視界は真っ暗だ。
外傷が無いために包帯を巻いていないから、他人には目が見えていないことがわからないらしい。
哀れみなのかなんなのかわからないが耐えられないような息苦しさ。この場から逃げたい。
そっと、優しく右手が持ち上げられる、というより、握手をされた。
「…名前さん、何か困ったことがあったら気軽に俺たちに言ってくださいね!」
「そうですよ、力になりますから」
「僕もできることはなんでもするからね!」
どうしてだろう、なんでこんなにも見ず知らずの私に優しくしてくれるのだろう。
私にはもったいなさ過ぎるこの優しさ。あたたかいものが、頬を伝ったような気がした。
それぞれの自己紹介を聞いて、私は声で判断できるようになった。
救ってくれた少女はモルジアナ、若い男性はアリババ君、幼い彼はアラジン君。
そして少女と共にいた人はマスルールさん。
私の話やこの国のことなど詳しい話は王様と話すことになったようだ。
王様にすべて打ち明けたら、どういう反応が返ってくるのか。この国は綺麗で優しくてあたたかいことからとても幸せな国だということがわかる。そんな国で元暗殺者が認められるのか。しかしここで死刑台に立たされても、どんなに軽蔑のまなざしを向けられても、私はすべてを受け止めよう。それで、今までの罪を償うことができるのならば。
[あたたかい人たち]
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