がんばるきみへおまじない

今年から私は高校一年生。
所謂、高校生デビューというやつに憧れて、桜が散り終わる頃にバイトを始めた。

バイト先はケーキ屋さん。
かわいいケーキが好きで、それがいつも見られたらいいなという簡単な理由で始めた。
持ち帰りもイートインもできるスタイルの小さくて控えめな、ケーキ屋さん。
地域の情報誌の隅に載る程度だからお客様は近所の方が多い。

接客の対応とか商品のこととか、いろいろ覚えていくのはとても大変で、ふわふわのケーキを優しく掴むことも至難の技で。
センパイは「最初のうちからうまく出来る人なんていないよ」と笑ってくれるけれど、このお店の第一印象を決めるのが店員の私。
しっかり対応しなきゃと思うのに。

今日だって、怒りっぽそうな男性のお客さんに萎縮してしまって元気の無い声で対応してしまい「はっきり喋れ!」と怒られてしまった。

そんな、『いろいろ』が積み重なって、ついに帰り道で気持ちが爆発してしまった。
声もなくボタボタと涙を地面に落としながら歩いていると、突然後ろから声を掛けられた。
びっくりして振り返ると、そこには幼い頃から仲のいい蛍ちゃんの姿があった。

「…なにしてんの」
「蛍ちゃん…」

ぐずっと鼻をすすり、そしてしばらく会ってなかった蛍ちゃんに会えたことに感動してまた涙がボトボトとこぼれ出した。


丁度蛍ちゃんの家が近かったこともあり、蛍ちゃんの家の縁側に座らせてもらい全てを話した。
部活終わりだったらしいのに申し訳ない。

「…それはまぁ自業自得デショ」

それは今日声が小さくなって怒られたことに対して、のように聞こえるけれど、全部に対してもあるのかな。

「もー!わかってるけどー!」

わんわん泣く私に面倒くさそうな視線を向けてくる蛍ちゃん。冷たい。
蛍ちゃんは昔からすんっとしてて、勉強もスポーツもできて、モテて、なんでもすんなりいいとこまでいけちゃう器用な子だ。
だからこんな失敗しないだろうから私の気持ちなんてわかりっこないんだ。

励ましてくれるかななんてちょっと期待したのに。

「…別にもっと気を抜いてやればいいんじゃないの。失敗したら死ぬワケでもないんだし」
「そうだけどさぁ…」

何事にも真面目に取り組んで自分の首を絞めるのは私の悪い癖だ。
蛍ちゃんは言ってしまえば逆の人で、緩くやって丁度いい加減を見つけて自分を守ってる。

「蛍ちゃんみたいになりたいなぁ」
「絶対ムリデショ」

フンッと見下すように笑ってくる蛍ちゃんが憎らしい。
でも、なんだか蛍ちゃんと話してたら根詰めすぎてる自分がアホらしくなってきちゃった。
いつの間にやら涙も止まっていて、明日からはもっと肩の力を抜いてやってみようかな、なんて。

「ねぇ蛍ちゃん、今度うちのケーキ屋さんおいでよ。ショートケーキ可愛いよ」
「奢ってくれるの?」
「んなまさか」

私が笑えば、蛍ちゃんはちょっと安心したように口元を緩めた。
もしかして心配してたのかな。

「蛍ちゃん、ありがとね」
「お礼はショートケーキで。」
「現金なヤツ〜」

ふたりで笑い合っていれば丁度よく蛍ちゃんのお母さんに呼ばれる。

「2人とも、ご飯用意できたからおいで」
「はぁい!」
「絶対母さん張り切ったな…」

元気よく返事する私の横で小さな声で溜息をつく蛍ちゃん。

こんな時間にお邪魔してしまったから気を使って私の分もご飯を作ってくださった。
少し急ぎ足で蛍ちゃんのお母さんが待つキッチンへ向かおう、…としたら、強く腕を引かれる。

「…ガンバレ」

気付いた時には額に何かが触れていて、それからすぐに離れて真上から声が聞こえてきたから、私は混乱して「え?え?」と言うことしかできなかった。

おそらく多分信じられないけれど今、きっとおでこにキ、キスされた。何なんだ。

「蛍ちゃん!?」
「…ホラ、行くよ」
「蛍ちゃん!?」

今のなに!?と訪ねてもいつもと変わらない顔で無視を続けられ、結局教えてはくれなかった。

だけどおまじないみたいで、ぐんとやる気が上がった気がした。
明日からめちゃくちゃ頑張って、蛍ちゃんがお店に来た時かっこいい接客を見せてあげるんだから!
楽しみに待っててよね!








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めちゃくちゃ過ぎましたが
誕生日だったお友達へ捧げた夢です。
おめでとうございました。

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