あなたがきららか海の底/瀬見英太
俺には彼女がいる。
「英太遅い」
「悪い。部活長引いた」
正直、普通の彼女ではない。
「この私を待たせるとか最低。そこの店でクレープ奢って」
「あぁ、いいけど」
見た目可愛くて初対面の時はすげえ大人しくて、告ったら普通の女じゃなかったことに三日後に気付いた。
態度がデカくてちょっとの遅刻も許さない、甘い雰囲気になることも数少ない。
俺たちマジで付き合ってんの?
と、思わないこともない。
「ねぇチョコバナナちょっと頂戴」
「うわ、お前遠慮ねえな」
「遅刻した分際で文句あんの?」
「いや…別にねぇよ」
俺はこの、名前の冷たい視線に弱い。
好きって言ってもらえたことが無かろうが、手を繋がせてくれなかろうが、俺は名前が好きなんだ。
…とはいえ、このままが続くのかと思うと不安になるに決まってる。
コイツについて知ってることまだすくねぇし。何考えてんのか正直わからねぇ。
「…さっきから何?じっとこっち見てきて…きもいんですけど。」
「なっ…悪かったな」
軽蔑したような視線に少し傷付きつつも、自分のクレープを食べることに専念する。
目の前で手を繋いでいる男女は仲睦まじそうに手を繋いで歩いていた。俺達もいつかあんな風にできんのかな。
次は無意識ではなく意識的に、バレないように名前を見ると、同じく目の前の男女を見つめていた。
ぐだぐだ考えてんのも俺らしくねぇよな。
食べ終わった後のゴミをゴミ箱に捨てると、丁度名前も食べ終わったらしく、ゴミ箱に向かっていた。
「次、どこ行く?」
帰ってきた名前にそう問われれば俺は何も言わずにその手を掴んだ。
「な、…!」
信じられない、といったような表情で見上げる名前はまるで茹でダコのように顔を染め、口をはくはくと震わせていた。
何か言いたげにしていたから、何?と催促すると、「つ、次、どこ行くのよ。」と帰ってきた。
「お前ほんと可愛いな」
ぶふっと吹き出して笑いながら空いてる方の手で名前を撫でれば、怒鳴られるかと思いきや、俯いて「英太のバカ…」と呟いたきり何も言わなくなってしまった。
やべえ、可愛い。
そのまま歩き出せば少し遅れて歩いてくる名前。
いつもなら前をずかずかと歩いて気になる店に突き進んで俺を振り回すのにな。
手繋いだだけでこんなに大人しくなるとは思わなかった。
なんか、今日なら確認できるような気がする。
「なぁ、名前。」
「何…」
こんな、女々しいこと俺からは絶対言いたくねぇと思ってたけど、
「俺のこと、好き?」
「…は、?」
俺からの質問に目を見開く名前。
「俺は好きだぜ。名前のこと。…心配になんだよ。お前が自由奔放にやってんの見てんの好きだけど、…俺で良いのかって、思う」
「…っその、わたし…可愛くないことばっか言うし、あの…私こそ、…良いのかなって、英太にもったいないって、もっと可愛くて優しい人と付き合った方がいいよねって、思ってる、けど、」
んな事ねえよお前以外考えらんねえ!と言いたくなる気持ちを抑え、静かに彼女が必死に紡ぐ言葉に耳を傾ける。
「…私が我儘言っても怒っても、…なんだかんだ付き合ってくれて、それで幸せそうに笑う英太が…その、嫌いじゃないから……だから、誰にも渡したくないし、…っ、あのね」
繋がれた手をぎゅっと強く握られ、彼女は満面の笑みを浮かべて俺が待っていた言葉をくれた。
「英太のこと、ほんとにすき!」
思ったよりも大きな声で言ってしまったらしい彼女は、周りからの視線にハッとして顔を赤く染める。
「俺も。名前のことマジで好き。ありがとな」
周りのことなんて構わず、可愛い彼女を引き寄せ、強く抱きしめた。
絶対、離さねえ。
翌日、偶然あの場に居合わせたという天童に俺が彼女を抱きしめてる写真をチラつかされ脅されたから、その写真を取引で買ってやった。
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アンケートへ白鳥沢(瀬見英太)に投票してくださった方、ありがとうございました。
瀬見さん迷子になってしまいました。くやしい…
精進いたします…。
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