ひと、で。/月島蛍
僕の教室には、変な奴がいる。
隅で一言も喋らず立っている女の人。
前髪が長く猫背で俯いている。
ホラー映画などに出てくるような、そんな人。
どうやらそれは僕にしか見えないようで山口に聞いたら首を傾げ、体調が悪いのでは?と心配された。
女の人は水に濡れていて潮の匂いがする。
それは、俗に言う幽霊というやつだろう。
なぜ僕にしか見えないのかはわからないが、特に気味が悪い以外は害もなく、ただずっと立っているだけ。
いつから現れたか記憶には無いけれど、恐らく三ヶ月は経っただろう。
あの女の人と初めて関わったのはある中間テストの日。
消しゴムを落としてしまい監督の先生に声をかけようとしたら、あろうことか先生は寝ており気付いてくれなかった。
おかしい。まだ五分しか経ってないのに寝るなんて。
まだテストは始まったばかり。
この後消しゴムを一切使わず解くなんて無謀だ。
シャーペンの後ろに付いている、一切使われていないこの消しゴムを使う日が来てしまったか…。
勿体ないようなそんな気持ちでいると、机の片隅に落としたはずの消しゴムがあった。
若干、水に濡れている。
不思議に思い先生が拾ってくれたのかと、視線を前へ向けると視界の端に濡れたヒトデが写った。
慌てて走っているそれに僕は目が離せなかった。
一体これは?テスト中なので不審な行動は取れない。後ろの、あの女の人を見たい気持ちを抑え、濡れた消しゴムを拭いて、テストに集中した。
テストが終わり、トイレへ行くフリをしてあの女の人の前を通ると、女の人の足元でヒトデがぴょんぴょんと跳ねていた。
やはりこの人が拾ってくれたらしい。
ヒトデを使役している幽霊って、何なんだ。
「さっきはアリガト」
小声でそう伝えると、今まで微動だにしなかった女の人がピクリと動いた。
教室に帰ってくると、机の上にピンク色の貝殻が置いてあった。確かこれは桜貝。
こんなもの置くのはあの人しかいない。
それから宝貝だったりシーグラスだったり、海に行かなければ拾えないものが机に置いてあり処理に困っていた。
とんでもない人に懐かれたかもしれないと、僕はため息を吐いた。
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