雨の音、君の足音

雨の音、君の足音/孤爪研磨

「研磨、口にケチャップ付いてる」
「ん」

なまえは、夜久くんや海くんよりもお母さんみたいだ。
いや、口煩くないしゲームばかりしてても何も言わないし、ただ…少し世話焼きというか。
世話を焼くのはおれにだけ。
別に付き合ってるとかそういうことはないのに。
出会ってからずっとそう。おれにだけ。

「おやおやおや〜今日もおアツイですねぇ〜」
「黒尾はさっさと彼女作れば?」

昼食の時間は屋上でクロと名前と三人で食べることが日課になっている。
いつからかと聞かれると困る。気付いたら、こうだった。
うるさくならないから居心地は悪くない。
たまにバレー部のみんなも来ることがあって、その時は騒がしくなるけど。

「今日の昼過ぎから雨みたいだけど二人は傘持ってきてる?」
「うん、…ある」
「ありますともー」

それならよし、と言って広げていたお弁当箱を片付け「今日は委員会あるから、もし帰れたら一緒に帰ろうね」と言いながら立ち上がるなまえ。
名前はこれから移動教室らしく、早めに教室に帰るらしい。
手を振り立ち去るなまえを見送り、クロと二人になる。
見送った後、スマホのアプリを起動するとクロはニヤニヤとしながら顔を覗き込んできた。

「最近名字チャンがいる時はゲームしてないみたいですケド?」
「気の所為でしょ」

その答えを聞いても尚、「フーン、気の所為かー、ソウカナー」とニヤニヤするクロは、少し…いや、だいぶん、ウザイ。

それから少しして自分達も教室に帰ろうとした時、屋上から、渡り廊下で見知った人達が会話をしているのが見えた。
リエーフと名前だ。
別に話してても構わない。名前にリエーフが懐いてるし、ああして絡まれてるのはいつものこと。

ただ、名前が呆れたような顔で、リエーフの顔をティッシュで拭いてるのがわかった瞬間、ぶわりと、自分の中の何かが逆立ったような。そんな感じがした。

リエーフにも、やるんだ。そういうこと。

固まっていたおれに、クロが「雨降りそうだから早く教室戻るぞ」と声をかけるまでその場を動けないでいた。


その日の部活は散々で。
頭にボールはぶつかるし、無意識にリエーフに無茶なトスをしてしまうし。
集中しろと猫又監督やクロに叱られた。
ずっと名前のことが忘れられないでいた。

なんだか、無性に名前に会いたかった。

部活が終わり着替える前にスマホを起動する。
時計を確認するとなまえはそろそろ委員会が終わる時間時間。
『今日、傘無い。校門で待ってるから』

それだけを送り、クロに「今日は一人で帰る」と伝えた。
いつもより急いで着替えて部室の外へ。

「研磨、傘忘れてるぞ!」
「あー、夜久。いいんだよほっとけ」

そんな夜久くんとクロの声を無視して校門へ向かう。
おれ、なにしてんだろ。

雨が降る中スマホを確認すると、丁度「すぐ行く!昇降口にいて!」と返事が来ていた。
既読はしたけれどそれを無視して、目的の場所に着いて、息を整える。

まだ誰も通らないここは、静かに雨の音が鳴り響いていた。
そして、しばらくして誰かの走る音が聞こえてきた。

「研磨!なんで昇降口にいないの!風邪ひいちゃうよ…!」
「名前。待ってた」
「ああ、うん、待たせてごめん…ってそうじゃないよ!人の話聞いてる!?」

珍しく慌てた様子のなまえが傘に入れてくれながら、とても怒っていた。名前が怒るのは珍しい。

「こんなことするの、おれだけだよね」
「他の人にされたらひとたまりもないよ…」

はー、と呼吸を整えるな名前に、うん、おれだけ。おれだけでいい。と、口角をひっそりと上げた。

どうして、こんなばかみたいな行動を起こしてしてしまったのか…気付くのはもう少し先のことになりそうだ。

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