君のここに魔法をかけてあげる

君のここに魔法をかけてあげる/牛島若利

わたしの好きな人はとても鈍感。

最初の出会いは高校一年生の時。
牛島くんは隣の席で、大きいし怖いし、隣の席になってしまったことが憂鬱で不登校になりかけたくらい怯えていた。
魔法が使えたらこの人とうまく話せるのかもしれないのにと悩んだあの時期。

でも思っていたよりも、案外優しくて。
私が不良みたいな人に絡まれてた時に助けてくれたり、転びそうになった時に支えてくれたり、重いものを持っている時手伝ってくれたり。
口数は少ないけれど優しさが伝わってきて、怖い人から、いい人、になった。

そんなわたしを落としたのは体育でバレーをしているのを見た時のことだった。
バレー部だということは知っていたけれど、無駄に大きいだけじゃない、力強いサーブやスパイクに、惹かれてしまった。

「どうしたの牛島くん」
「なんだ」
「ううん、なんでもないよ」

何を考えているかわからないように見えるけれど、こうしてじっと見ていると見つめ返してきて話があるのか?と、少しだけ空気が困ったような、焦ったような感じがする。
こんなところがちょっとだけかわいいと思ってしまう。

3年間奇跡的に同じクラスで、席は離れてしまったけれど私から牛島くんに関わりに行くのでなんだか他の人よりも仲良くなれてる気がする。
天童くんには叶わないけど。
でも今日はなんと2人で喫茶店に来ているのだ。
せっかくの貴重なお休みなのに振り回してしまって申し訳ない。

「ねえ牛島くんは恋とかしたことあるの?」
「こい?」

じっと見つめられる。
あれ、これバレてないよね?
ちょっとだけ緊張しながら見つめ返すと、暫く経ったあとに、いや、と否定をされた。
変なこと逆に質問されたりしなくてよかった。鈍感でよかった…。

しかし、「いや」ということは、それって昔も今も好きな人はいないということ。
でも、今もいないということは私も意識されてないということ。

「うーん、そっかぁ…変なこと聞いてごめんね」
「構わない。…みょうじはしたことがあるのか」
「へ!?」

逆に聞き返されるとは思わなかった。

「…あるよ」
「そうか」

そうか。それだけしか返してこないあたり興味はそこまでなかったのかもしれない。
もしわたしが魔法使いならば牛島くんを振り向かせることができたのだろうか。
どきどきさせられるような、そんな魔法を掛けることができるのだろうか。

しかし既に牛島くんによって既に魔法を掛けられてしまっているわたしはどうやら怖いもの知らずのようで。
ふと思いついた行動に、体がとめられなかった。

「ね、牛島くん。もしわたしが牛島くんに恋してるって言ったら、どうする?」

牛島くんの胸元に指先を伸ばし、とん、と触れると、彼は目を見開いて僅かに頬を染めていた。
私の腕を掴むとやや強い口調で叱られてしまった。

「冗談はよせ」
「冗談じゃないよ」

1年生の時からずっと。

そう伝えれば牛島くんは珍しく動揺した様子で、目を泳がせていた。
ねえ牛島くん、わたしも魔法使いになれるかな。


[*prev] [next#]

[] [TOP]