無断侵入と居眠りヨーグルト

 ソファでななしが寛ぐこと数時間。目深にフードを被って熟睡していると、部屋の主が帰ってきた。
「ったく、骨の折れる依頼だったぜ。ん? ソファに誰かいるのか?」
「あぁ、ななしくんだね。ぐっすり眠っているようだ」
「まったく。吸対といい、もう少し事務所のセキュリティを上げた方がいいか?」
「ハハッ。鍵をかけたとしても、すぐに解除されそうだけどね。ななしくんのピッキング能力で」
「チッ! だったらパスワード式か指紋認証式にして」
「君、パスワードを覚えられるのかい? アプリのパスワードすらメモしているほどじゃないか」
「てっめ! 勝手に見たな!? か、簡単なパスワードくらい覚えられるわ!」
「そこがダメだと思うな」
 ドラルク――この部屋の居候の一人だ――がダメ出しを行うと同時に灰になった。部屋の主であるロナルドの拳を顔面に食らったのだ。ドラルクは一発で沈む。ロナルドとドラルクの喧騒で深い眠りから起こされたのか、ななしは重く瞼を持ち上げた。
 ななしの視界にはフードの裏面が見える。グッとフードを持ち上げると、苛ついたロナルドの顔が見えた。ななしは寝ぼけ眼で挨拶をする。
「あぁ、おはようございます。ロナルドさん」
「おはよう、ななしさん。自分の部屋で寝てくれないかな?」
「あぁ、帰り際にこっちが近かったので……。寝てました」
「ごめん、よくわからないな」
「ななしくんがマイペースなのはいつものことだろ」
 復活しかけたドラルクがまた灰になった。
 ロナルドの肘鉄がクリーンヒットしたのだ。
 ななしは大きく欠伸をする。我が物顔でソファから起き上がったあと、ノロノロと台所へ向かった。
「フルーツグラノーラってあります? カルビーの」
「ねぇ。なんで俺の事務所にそんなものが置いてあると思ったの? ねぇ?」
「君、まだそんな不健康な生活をしているのか。アレだったらロナルド君宅にお邪魔して朝食を取ってもいいといっただろ。血も美味しくなるし」
「おい、ドラルク。それ、外でいうなよ。俺ら吸血鬼退治人と吸血鬼対策課の奴らのお縄になるからな?」
「それに、今更食い扶持が一人増えても変わりないさ。君以外に、この事務所へ居候している人はいるからね」
「ちーん! ドラルク、食事の時間か!?」
「あぁああああ! てっめぇええええ!!」
 ロナルドは青筋を立てた。なぜなら吸血鬼対策課のヒナイチの登場と同時に部屋の床の一部がポーンと弾け飛んだからだ。ロナルドの事務所維持の費用が嵩張る。
 胃痛と頭痛で苛立つロナルドをよそに、ななしは冷蔵庫を開ける。
「あれ? ななしくん。どうしてヨーグルトを出しているんだい?」
「ドラルク、今日のオヤツはクッキーか?」
「どうしてアンタは、さも当たり前かのように吸血鬼にお菓子ねだってるんだ?」
「グラノーラがないなら、ヨーグルトで代用しようと思いまして」
「ねぇ、ななし=サン? それ、俺が買っておいたヨーグルトなんだけど? ねぇ、ねぇ?」
 頬に青筋を立てるロナルドがななしへ尋ねる。静かなるロナルドの怒りに構わず、ヒナイチはななしの向かい側に座る。ドラルクは食器棚から二人分のガラスの容器を出した。
 トン、トンとななしとヒナイチの前にガラスの容器が現れる。ななしはそれらにヨーグルトを分けた。
 スプーンもそれぞれ現れる。
「今回の依頼でわかったことなんですが、新横浜の海岸沿いで高等吸血鬼の出現が確認されているようですね」
「うむ、被害のほどは聞いてないようだが、こちらでも注意するとしよう」
「あれ? なんで退治人と吸対が仲良く作戦会議を開いてるのカナー? 吸血鬼の情報共有するなら、俺も参加させろよ。おい、ドラルク。俺にも頼む」
「えー?」
「どうして男にはそう渋るんだよ! おめーは!?」
 コラ! と怒鳴るロナルドにドラルクは嫌な顔をしながら、ロナルドの分も出す。
 テーブルに三人分の食器が現れる。ガラスの容器によそわれたヨーグルトが減る量は違った。
 ななしは半分まで食べながら呟く。
「蜂蜜か砂糖がほしいですね」
「確かに。おい、ドラルク! もっとヨーグルトを美味くしろ」
「あれ? 吸血鬼の情報を共有する会議じゃなかったの? これ?」
 混乱するロナルドを無視して、笑顔のドラルクは甲斐甲斐しくヨーグルトを美味しくした。


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