いつものこと(慣れ)

 パスタを一口食べる。久しぶりの味に「やっぱり、虎次郎の作る料理の方が美味しいね」と微笑めば、薫がムッとする。虎次郎が照れているところに水を差し、喧嘩に発展した。またAIや技術が絡んだ話で弾み「薫の知識量には敵わないや」と嬉しそうに零せば、虎次郎がムッとする。恥ずかしがり、扇子で口元を隠せば虎次郎がボソッと口出した。これに薫が噛み付き、喧嘩に発展する。毎回××がなにかをいえば、喧嘩に発展する。慣れっこであるものの、流石にカウントが超えた。
「よくもまぁ、ここまでポンポンと出せるよね」
 呆れながら××はパスタを巻く。今はボロネーゼを食べることに忙しい。「あ!?」と互いに相手の襟首を掴み合う二人が同時に振り返った。声もハモる。即座に相手へ顔を戻し「真似するなッ!」「そっちこそ!!」と声を張った。流れ弾を喰らった××は、平然とパスタを食べ続ける。牛肉を赤ワインで引き出した旨味が美味い。冷凍パスタでは引き出せない味だ。迫る薫の袖に、××はパスタごと背を向ける。着物の袖が××の肩に当たった。
「大体、毎回毎回お前の滑りは雑過ぎる! もっと角度に気を遣え!! 原始人!」
「俺の滑りは俺が滑りたいように決めるんだよ! 重箱隅突きピンクッ!!」
「こっちはそれで大怪我をしかけたんだぞ!?」
「そりゃ、お前の滑りがヘタクソだったからだろ! 普通に避けろ! 普通に!!」
「だったらお前も、あのとき普通に避けろ!」
「それとこれとは別だッ!」
「怪我をしないように気を付けようね。今も昔も、薫は着物にね」
「んっ」
「気を付けろよ。コイツのぼったくりは尋常じゃないからな」
「当然の権利で要求したまでだ。そっちが悪い」
「お、ま、え、な!」
「着物のクリーニング代は高いからね」
「貧乏人が思う以上にな」
「いつまでもネチネチと根に持ってんじゃねぇよ。陰険眼鏡」
「どっかの大馬鹿が大雑把にやったせいだろうが。阿呆ゴリラ」
「どこかの大間抜けがミスしたせいだろうが。ドケチ眼鏡」
「なんだと?」
「やるか?」
「望むところだッ!」
「お互い、服は汚さないようにしてね」
 ギリギリと火花を散らす二人に、××は背を向ける。傍らの花瓶と正面向いて、食事を続けた。「くっ!」と薫は苦虫を噛み潰したような顔をし、虎次郎は慌てる。「そんな風に食べたら、寂しくないかな?」「本州だと花を愛でて食事をする文化があるから」プイッと××は顔を背ける。焦燥する虎次郎を余所に、薫は頷いた。「花見か」「今は関係ねぇだろッ!」虎次郎が噛み付く。またしても始まった喧嘩に、××は身体の向きを変えた。
「食事の邪魔は、しないでね」
「まだ食うつもりか!?」
「ちょっとは気にしてほしいなッ!?」
「もう慣れたから」
 申し訳なさそうに××はいった。


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