歳の差約束(ミヤ)

 突然、キュッと服を掴まれる。振り返れば、実也くんだ。制服のベレー帽で見えにくいけど、ちょっと俯いてる。ツンと尖った上唇が印象的だ。
「ちょ、ちょっと頼みがあるんだけどさ」
 もじもじしている割には、口調は相変わらず。とりあえず、掴んできた手を離すことはできない。「ん?」とだけ返しておいた。「その」実也くんの視線が少し泳いで、キュッと口を引き締める。(本当、猫みたいな顔だなぁ)キリッと吊り上がった目の形なのに、クルッとした丸くて大きな瞳。(大きくなると、どうなるんだろう)実也くんの将来について考えてたら、バッとスマホの画面を見せられていた。
「こ、ここっ! ここ、一人じゃ行きにくくてさ。ねぇ、アンタも一緒に、行ってくれない?」
 そう大人びた感じでいわれたら、断るわけにもいかなかった。(友達との約束が入りそうだったけど、仕方ない)返事を迷ってた誘いに断りを入れれば、彼氏かと冷やかされる。(違うっつーのに)そもそも、実也くんは子どもだ。中学生に手を出すなんて、犯罪だろう。と思いつつ、当日まで過ごす。実也くんが誘ってから今日まで、実に日が短い。中々会えない実情を見て、ようやく実也くんが捕まえてくれたのかな、と思わないでもない。私も私で、結構忙しかったのは事実だけれど。インターホンが鳴る。玄関を出ると、いつもと違う格好をした実也くんだ。少し背伸びをしているのか、身に付けているものはちょっと大人っぽい。「寝坊、しなかったんだ」休日の私をなんだと思っている。「ちゃんと、時間を教えてくれたからね」しかも私に合わせての遅い時間帯だ。実也くんにとったら遅すぎるかもしれないけど、私にとっては充分だ。どうにか準備もできたし、目的の場所も開いているだろう。
「早く行った方が、よくない?」
「うーん、逆に昼過ぎの方がいいかな。その方が猫がいっぱいいるし」
「いるの!?」
「うん。大体、朝だと出てこない猫ちゃんがいるから。それだと切り替わる時間帯が一番いいと思う。ほら、当番制で変わるから」
「そうなんだ。もし飼うとしたら、気を付けないと」
「他にも色々と気を付けることはあるけど、猫ちゃんには無理強いをしないようにね」
「わかってるよ。もう。こう見えて、予習はバッチリなんだからね!」
「なら、いいんだけど。実際にやるのと見るのとは違うからなぁ」
「むっ。どういうこと?」
「猫の魅力の前だと、形無し」
「まぁ、いいたいことは大体わかるけど」
 プクッと実也くんが頬を膨らませる。(これ、姉弟だと見られているといいんだけどなぁ)それかいとこのお姉さんか親戚の辺り。援交や誘拐だと見られたら、一溜まりもない。ギュッと実也くんが指先を握り締めてきた。
「もしかして、嫌?」
「ううん。ちょっと、社会的な立場に意識が飛んでて」
「そう。まっ、安心すれば? なにかあったら、僕が守ってやるから」
「うーん、実也くんが口を出した時点で、さらに詰まると思う」
 洗脳されてるんじゃないか、って。ストックホルム症候群というやつだ──とまでは、流石にいわなかったけど。そうしたら、実也くんがますますムッとした。
「それって、どういうこと? 僕がまだ中学生だからって馬鹿にしている?」
「例え天才スケーターであっても、まだ子どもですから。大人は色々と心配するものなんです」
「なにそれ。こう見えて、僕は大人たちに混ざって勝負にも出られるんだけど?」
「はいはい」
 そうであっても、心配なものは心配なんです。ちゃんとした大人なら。と、いいたいけれど実也くんは聞く耳を持ってくれない。「だから安心してもいいっていってるのに」とムクれるだけだ。
「もう少し大人になったら、安心できるかなぁ」
「なに? それって、具体的にはどのくらい? 十五歳になったら?」
「社会人? いや、二十歳になったらかな? ともかく、今の実也くんは子どもだから。色々と考えちゃうよ」
「じゃぁ、二十歳になったら本気と捉えてくれるってことだよね?」
「ん?」
 なんかドサクサに紛れて重要なことをいわれたような気がしたけど、多分、その頃には忘れている頃だろう。「うん、二十歳になったらね」というものの、その頃には私もどうなっていることやら。
 ボーッと空を見上げると、目的のネコカフェの看板が見える。「約束だからね! 絶対だよ!!」ギュッと手を握り締めてくる実也くんに「うん」とだけ伝える。目を合わせれば、必死にこっちを見上げていた。
(子どもだなぁ)
 絶対に忘れないでよ!! と強く訴えかける瞳に、そう思った。


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