馬鹿な私(ランガ)

「わぁ。ランガくん、それって」
 カバンの中から出てきたものに、つい驚いちゃったよ。「えっ、これ?」なんてキョトンとした顔をされても。ちょっと、困るし。あっ、普通に食べちゃったよ。この子。
「それ、賞味期限大丈夫? なんか、すごくベチャッと潰れてるけど、大丈夫? 具とか出てない?」
「うん。メロンパンだから、大丈夫。あんぱんやカレーパンと違って、出ないから」
「う、うーん」
 既に初犯じゃないということか。それにしても、目についたから食べるって。(これは、ちょっと予定を変えた方が良さそう)暦くんから気を遣われた手前、絶対に成功させたい。「こんなところにあったなんて。暦から、お弁当分けてもらう必要なかったかな」そんなところでショボンと落ち込まれても。暦くんに対する嫉妬が上がっちゃうだけだよ、ランガくん。
「デートスポット、別にする?」
「ん、変えたい?」
「お金使えないようなところだけど、散歩とか身体を動かす感じのを考えてたんだけど」
「ふーん」
「そこまで食べることが好きなら、バイキングもどうだろう、って思って」
「Viking=H」
「うん」
「えっ、海賊の方?」
「あっ、食べ放題のこと。えーっと、All-you-can-eat≠ナだと、伝わるかな?」
「All-you-can-eat!? それ、行ったことある!!」
「えっ、あるの!? じゃぁ、別のところにした方がいいかな」
「ううん。暦とミヤと一緒に行ったら、俺だけ入るなっていわれて。なんか、暦がいうには『ぶらっくりすと』っていうのに入れられたっぽい」
(あ、あー)
 なんとなく察した。けれど、ランガくんは自分の胃袋の巨大さには気付かないようだ。「なんでだろうね?」「さ、さぁ」「『ぶらっくりすと』って、なんのことだろう? 黒い、リスト」「うーん」当たっているような、当たってないような。カナダ圏だと、なんていうんだろう? この辺りは、うん、別のときに考えよう。少し悩んで、ランガくんに聞いてみた。
「じゃぁ」
「ん?」
「いっぱい食べれるところだと、入れる?」
「山盛りのライスを注文できるところ? それだと、入れるかもしれない! けど、ハンバーガーより高くて」
(あれだけの量を? それと比べて高いって、いったい)
 どれだけ巨人の胃袋を持つんだろう。少し、食費について思いを馳せた。「家でも、そのくらい?」「ううん、母さんと同じくらいの量。普通の量でも、充分いけるよ」「そうなんだ」つまり、際限なく食べるときは食べると。
(多分、一番喜ぶとしたら食べ物かな? だとしたら、お金がすごく飛ぶし。うーん、映画だと寝ちゃうかも? 身体を動かすとしたら、スケートボード?)
 でも、私はできないし。(どうしよう)ランガくんとのデートプラン、中々立てられないな。ちょっと煮詰まってランガくんの方を見たら、ランガくんが私の方を見ていた。(う、わ)睫毛まで、水色。髪と同じ色だ。ふさふさだし、長い。アクアブルーの瞳が、私を覗き込んでいた。それにカッと顔が赤くなる。
「な、なに?」
 声が震えちゃった。けれど今隠すと、あらぬ誤解を受けそうだし、どうしよう。オロオロしていると、ランガくんは首を傾げた。いつもと変わらず、キョトンとした顔で。
「ん、なんか、悩んでるように見えて」
「そ、そう?」
「うん。なにもないなら、いいんだけれど」
 そういうけど、離れる気配がない。「え、っと」ジッとランガくんが私を見つめる。「なんでも、ないよ」心臓で押し潰される中、どうにかいえただけでえらい! と自分を褒め称えたい。私がこんなに動揺して心臓が苦しんでも、ランガくんは涼しい顔をしていた。「そっか」い、イケメンの特権めッ!! そう八つ当たりもしたくなっちゃう迷いが出た。
「本当に?」
「ほ、本当に」
 そして今日だけは、意外としつこい! グッと口を塞ぐ。ランガくんが疑うように、キュッと眉を顰める。(わっ、良い男はどんな顔でも似合うなぁ)それに惚れ惚れとしてたら、ランガくんが口を開いた。
「別に、そこまでしなくてもいいよ。俺、気にしないから」
「えっ」
「こうして話してるだけでも、充分じゃない? ね?」
(いや、そんな。制服デート、だけなのに?)
 放課後、なにも買わず公園で喋ってるだけなのに? 本当に、それだけでいいんだろうか?
 不安になって、ランガくんを見る。特に、面倒臭いなと思う感じはない。ただ、普通に提案をしてみただけのようだ。私を見て、キョトンとしている。
(カナダだと、そういう感じなのかな?)
 迷っていると「どうしたの?」とランガくんが話しかけてくる。そういえば、毎日話すにしても、なにを話そう。迷っていると、ランガくんが小指を差し出してきた。
 ピン、と小指の一本だけを突き立てている。
「じゃ、なにもなくても毎日放課後、こうして会お? 約束」
「うん。あっ、休みとかは? どうするの?」
「んー、なにか予定はあったりするの?」
「たまに」
 そう頻繁ではないけれど、行けないときはある。ギュッと、私とランガくんの小指が結ばれた。「じゃぁ」ランガくんが提案を続ける。
「週末に、休みどうするかって話し合おう。それで、いい?」
「うん」
 とりあえず、金曜日ということで、えっと。──そのときの私は『好き』という感情の爆発でなにも考えられなかったのだけれど、まだお互いに連絡先を交わしていなかった。毎回、ランガくんか私がかお互いのいるところを尋ねて、なんか予定を立てるだけで、あの──。
 つまり、このときだと週末ランガくんが怪我をして入院することなどを知らずに約束を交わしていた。そんなことを知らず、馬鹿な私は約束を交わすのであった。


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