(書いてて飽きたやつ)(じょとちぇと主従組)

 LIMEの通知が鳴る。確認すると、暦とランガからだった。どうやら二人だけでするビーフの場所で、綺麗な朝日を撮ったらしい。角度や手振れがそれぞれ違うが、同じ写真を送っている。ついでに今回の勝負の結果もメッセージで送ってきた。(メモとカウント代わりかな?)そう思うものの「綺麗な朝日だね」とか「ファイト」と送ると返事が返ってくる。別に高校生二人からメモ代わりに使われている様子はなかった。いくら機械とはいえ、他人と話したことに変わりはない。妙に目が覚める。というか、起きればもう昼じゃん。ヤバい、二人との待ち合わせに遅れる。慌てて歯を磨く。こうなったら抜いて、それもヤバイ。コンビニ、だとすると突っ込まれる。タッパーの中を少し摘まむだけにしよう。薫と虎次郎が作ったものだから、文句はいわないだろう、絶対。
(あの二人のように仲良くすればいいのに)
 おかげで冷蔵庫の中はタッパー二つだ。薫と虎次郎が作った分。万が一どちらを食ったと聞かれた場合は、両方と答えておこう。その通りだし。冷凍庫から焼きおにぎりを出し、レンジにチンする。文明は偉大だ。洗面所に戻るついでに、キッチンへ飾った薔薇を見る。Sのトーナメント終了後、優勝したランガも祝うパーティーで、ついでに渡されたものだ。いっておくが、ランガの方が渡された数は多い。軽く見ても五百本、九百九十九本ありそうだが、実際は二百近いかもしれない。その点、こっちは一本だ。寧ろランガの方が処理に困ったと見える。(お母さんにあげたのかなぁ)それでも数は多いのだから、バスタブに浮かべるのに使ったかもしれない。生花は意外と重い。その点、一本だと楽でいい。
(菊池のくれた説明書もあるし)
 流石秘書、あらゆることに万能すぎる。花瓶の水を入れ替え、栄養素の滴を垂らす。これで薔薇が長生きした。(あとは)提出の締切までは時間がある。頭の中で組み立てても平気だろう。というか、あと一手が足りない。滑って頭リフレッシュしてる辺りで閃き出すのが一番だ。それが一番早い。
 顔を洗うついでにシャワーを浴びて、下着も替える。適当な服を着て髪を乾かし終えると、突然上空から煩い音がした。ヘリコプターだ。もしや訓練所から、と思うが煩い。これが普通だとしても、騒音は騒音だった。
 なんか近付いているような気がして、ベランダの窓を開ける。そこが一番音に近かったからだ。すると、どうだろう。誰が想像できるか。ランガ同様、このような手厚い歓迎の仕方を受けると思うか。熱に浮かされたような間延びした声が、私の名を呼ぶ。一瞬、大家や近隣住人からのクレームが横切る。全身の血の気が引き、揺れる縄梯子を思わず掴んだ。自分の方へ引き寄せる。
「おやおや。そんなに僕に会いたかったのかい?」
「なにやってんだよ!! 馬鹿ッ!」
 呑気に見当違いなことをいう腕を引っ張った。おまっ、実家が太いから気付かないだろうけど、それは充分に近所迷惑なんだよ!! 愛抱夢が近付くにつれて、ヘリコプターの高度も下がる。クッ! これ、絶対操縦者菊池だろ!? そうじゃなきゃ、ここまで愛抱夢に合わせた高度の調整はできん!! 抱き止めようとする愛抱夢の腕を掴み、無理矢理ベランダに降ろす。「熱いことをするじゃないか」と歯の浮いた台詞を無視して部屋に引き摺り込む。ウキウキ気分で両腕を広げてるのを無視して、ムカつく仮面を剥ぎ取った。
 一気に愛抱夢が顔を覆って身体を丸めた。
「なにをするんだよ」
「いや、今のままだと全然会話にならないから」
 正直、愛抱夢気分のモードだと、会話をするにも骨が折る。ここは仮面を剥ぎ取って素の状態にした方が早い。一番自分を曝け出せる仮面を剥がされてか、愛抱夢の気分は最悪だ。声も低い。一気にテンションが下がった。不機嫌そのものである。
「返してくれないか? 今すぐ」
「嫌だよ。愛抱夢のままだと会話も疲れるし。ほら、服も貸すからさ。それで隠せばいいじゃん」
「はぁ? 僕に合う服のサイズを持っているというのか?」
「ユニセックスってお言葉、知ってる?」
 それとサイズ的なところをいえば、虎次郎や薫みたいに大きくないし、ギリいけるはずだ。傲慢不遜に見下ろして来た愛抱夢に腹が立つ。人の胸を指差すな! 仮面を背中に隠したまま、手を差し出す。
「貸して。携帯」
「はぁ?」
「菊池に連絡するの! ほら、まだこの周辺で待機してるでしょ? この飛行機の音、とても近所迷惑なの!!」
 クレームが全部くる! とここまでいったらわかったのか。愛抱夢がとても苦い顔をしてスマホを取り出した。「クッ」「仕方ないな」との負け惜しみも結構である。スマホを受け取り、菊池に電話をかける。流石犬、ワンコールですぐに出た。
『はい』
「あ、菊池? ちょっと頼みがあるんだけどさ」
『愛之介様は?』
 たっぷりと間を置いてから、それである。「家に引き摺り込んで仮面剥がして大人しくさせた」と一気にいえば『そうですか』と返ってくる。別に反対しないんだ。それに対して。
『それで? 頼み事ってなんです』
「とりあえずヘリコプターをどこかへやってくれる? このままだとクレームが入るから。というか実際に入る」
『わかりました。菓子折りを持って直に謝りにいきます』
「とてもありがとう。流石有能な秘書」
「当たり前だろう。忠実でなければ困る」
「流石名前に『忠』と付いているだけある。いや、それだけじゃなかった」
 ヤバイ、思わず忘れるところだった。愛抱夢がわざわざこの登場をしてきた以上、大体の魂胆がわかる。ランガに対するのと同じものだろう。残念だが、その時間はない。代わりに巻き込もう。電話の向こうで待機する菊池に伝える。
「ちょっと、愛抱夢のサイズに合うパンツも買ってきてくれるかな? スケートに適したヤツ。それと、菊池の分も全身買ってきておいて」
『何故私も?』
「どうせ影で見守るだろうから。それなら堂々と変装をしてた方が、菊池も説明されずに済むでしょ? 私も楽に済む」
「待て。どうして菊池も出てくるんだ? 二人だけでビーフをする予定だろう!?」
「生憎と日付までは聞いてないのでね!? そう突然申し込みされても、こっちもどうしようもないよ!? っていうか、先に予定が入ってるから」
「な、んだと?」
「当たり前でしょ!? アンタのためにいつでも空けてるわけじゃないから! どうせ断っても食い下がりそうだし、面倒臭いから一緒にした方が楽でしょ?」
「そんなわけあるかッ!! わざわざ時間を作ってきてやったんだぞ!? それに、僕の顔にも世間体ってのがあってな」
「隠せばいいじゃん。少なくとも、その態度で愛だのなんだとかほざくやつには見えないよ?」
「当たり前だ! クソッ、政治家としての顔が」
「割れる? とりあえずサングラスでもしておけば大丈夫でしょ。ゴーグルでもしとけば?」
「無責任なことをホイホイとッ!」
「ちゃんと考えての発言だけど? 既に、ヘリコプターの件で近隣からのクレームは確実だし、ハハッ。ほら、さっさと脱いで着替えてよ」
 乾いた笑いしか出ない。菊池のおかげで負担は大分減るとはいえ、肩身が狭い。ムッと愛抱夢が顔をへの字に曲げさせる。口も眉もへの字だ。顎と眉間に皺を寄せている。バンッと背中を叩く。「着替えがないとどうしようもないんだが?」の苦情には最もだ。
「それとも、僕に全裸でいろって?」
「ふざけんな! とりあえず服は貸すし菊池にも頼んだから、その格好を外ではやめてよ」
「はぁ、仕方ないなぁ」
「一々一挙手一投足がムカつく男だな。本当」
「なんだい? 僕に惚れ直したとでも?」
「ふざけんなッ!!」
「そんなに否定しなくても。傷付くなぁ」
「完全に人を不愉快にさせる肚《はら》しか見えないでしょうが」
 完全に煽るような感じで来られたら、ピキピキくる。もしかして、愛抱夢における『友人関係』がこんな感じとか? そういえば愛抱夢と高校生の頃仲間《チーム》だったって、虎次郎と薫がいっていたような。あっ。もしかして身近な例がそれしかなかったとか? やめてくれ、あれは薫と虎次郎だからこそできるヤツなんだぞ? と思いながらクローゼットに向かう。愛抱夢も付いてくる。頼むから、女性のプライベートルームにズカズカと入り込むのはやめてくれ。入り口の方で待ってもらい、服を探した。──正直、スケートをやる以上予備として似たような服を何着か持っている──。それらのうちサイズの大きいものを選び出して、愛抱夢に与えた。自分の分はもちろん、探すついでに選んだ。愛抱夢が眉を顰める。
「似たような服ばかりだな」
「そう? 地味にデザインも素材も大きさも違うのだけど。微かな違いのこだわりだよ」
「一律に大量生産された低価な服じゃぁ、満足できないのか?」
「言い方に悪意があるッ!! 満足できるデザインじゃないの」
「こだわりが強すぎるのも問題だな」
「愛抱夢にいわれたくない。とりあえずサングラスを探すから、見ないでね?」
「見てほしいのか?」
「馬鹿いわないで」
 そのニヤケ面、殴ってやろうか。と思いつつ洗面所に向かう。「あっ、そうだ」流石に上それの下これだと許せないので、代わりのものを貸した。
「菊池がくるまで、これでも履いておいて。脱いだのは菊池に渡せばいいから」
「当たり前だろう。うん? 待て!? なんだ、これは!?」
 とりあえず着替えてくる。部屋の中で叫ぶ愛抱夢を無視して、洗面所に入った。扉を閉めて、着てたものを脱ぐ。パーカーとジーンズ、スケートに適した格好に着替える。(とりあえず化粧は)いいや。どうせ汗とかで取れる。それに、服に付いたときが厄介だ。日焼け止めとそのカバーとかで充分だろう。生憎と洗面所にそれら一式は置いてない。寝室だ。(愛抱夢って、もう着替えたっけ?)できればそう願いたい。着替え中に遭遇するなんて、あんまりだ。念のため、壁をノックする形で確認しておこう。そう思ってリビングに戻ったら、愛抱夢が仁王立ちで立っていた。腕も組んでいる。
「なんだ」
「いや。日焼け止め塗るから、見ないでね」
「誰か見るか」
(なんだ、その不遜な態度)
 と思うが、変に下心を持たれるよりはマシである。寝室の扉を閉めて、肌の出ている場所に日焼け止めを塗る。とりあえず肌の色を、駄目だ。リキッドを使っても色が付く。諦めよう。日焼け止めの蓋を閉めて、鞄に詰め込んだ。小さなリュックサックである。塗り直し用の日焼け止めに、怪我をしたときの応急処置セット、それと財布とタオル、スマートフォンだ。これだけあれば大丈夫だろう。背中に背負って部屋を出る。愛抱夢は相変わらず、部屋の中で仁王立ちをしていた。変わらず腕を組み続けている。
「なんだ。化粧はしないのか?」
「悪い? どうせ汗を掻くし、軽くしてもね」
「ふぅん。しないのか?」
(なぜ二回も聞いた)
 しつこい。と思いつつ「しないよ」と返す。もしや、愛抱夢とこのやり取りが続くとでも? 頭を抱えていると、インターホンが鳴った。玄関に近付く。愛抱夢も付いてきた。「あっ、そうだ」忘れていたものを取る。
「はい、これ。フード被ってたら、少しはバレないでしょ?」
「サングラスか」
「そうそう」


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