ホラー映画苦手(暦)

 ふと暦の鞄の中を覗いたら、T型のツールがあった。「それ、なに?」疑問に思って聞いてみる。すると、暦が「あっ、やべっ!」と慌てた。
「ボードの調整に使うヤツでさ。つい、癖で」
「スケートボードがないのに?」
「ボーダーの習慣って、ヤツだよ」
 しまったなぁ、というように暦が自分の頭を掻く。チラッとこっちを見た限りだと「これで飽きられていないだろうか」なんだろうか? うーん。暦も、なんというか。(そんなことで、飽きるわけないのに)スケートボードに夢中な姿を見て好きになったのに、なにを今更。そう思うけど、告白してきたのは暦の方。私が、中々言える機会はなかった。
「ふーん、そっか」
「うん。あっ、ところでさ! これ、映画のチケット!! ほら、見たいっていってただろ?」
「わぁ、ありがとう!! ところで」
 確かに観たいといったけど、暦の苦手を考えると遠慮したはずだ。「これ。ホラー要素入ってるけど、大丈夫なの?」配信まで待とうとしたのに。指摘すると「うっ!」と暦が黙り込んだ。顔を青褪めて、ダラダラと汗を垂らしている。脂汗だ。ついでに、素直なのか。キュッと私の服の袖を掴んでいる。
「だ、だぁいじょうぶだって! 俺、意外と怖くないんだぜ!?」
「へぇ、そうなんだ。なら、ホラー映画耐久一〇本でも?」
 平気? と聞こうとする前に暦が折れる。腰を直角に九〇度曲げ、私の服から手を離した。頭の上で手を合わせて、正真正銘の謝罪をする。
「ごめん。流石にそれは無理だわ」
「でしょう? 無理に合わすことはなかったのに」
 そもそも、買うことすら難しかっただろうに。(これ、いったいどうしよう)暦の気持ちを考えると、無碍にしたくない。「だ、だってよぉ」恥ずかしそうに、暦が自分の頬を掻いている。顔が真っ赤だ。直視したくないのか、私と一切目を合わそうとしない。地面に落ちている。
「よ、喜ぶ顔が見たくて」
(呆れた)
 だからって、自分の苦手なものに付き合わなくても。ちょっとは顔に出たかもしれないけど、恥ずかしがる暦に、なにかいわないと。(うーん)そうだ、これならどうだろう?
「もう、だからいったのに。こっちのを見ようって」
「ご、ごめん。こっちの方が見たいと思って」
「苦手なのに、身体張りすぎ」
「ぐぅ。言い返す言葉も御座いません」
「はぁ、暦はどうする? 映画のチケット代、勿体ないし」
 だからといって、無理な人に無理強いするわけには。と思っていると暦がすごい顔をしていた。すごく、思い悩んでいる。ギュギュっと脇を締めて腕を組みながらの、頭を上や下に回したり、左や右へ傾けたりする。苦悶の表情だ。(エグザイルかな?)あるダンスミュージックの振り付けを思い出す。「いや」「その」動きが止まったと思ったら、しどろもどろに話し出す。これは、頷きたいけど本能が否定しているヤツだな。素直なヤツめ。そう思いつつ、暦に提案した。
「じゃぁ、目を瞑ってる?」
「いや、それだと逆に想像力を刺激される、っつーか」
「なら、耳を塞ぐとか。耳栓、買う?」
「やっ! それだけのために買うとか、なんか悪いっつーか」
「うーん、それじゃぁ」
 こういうの、女子からいうべきじゃないと思うけど、仕方ない。暦の期待を裏切るかもしれないけど、埒が明かないのでいった。
「上映中、手を握ってる? それだと怖くないでしょ?」
「えっ」
 もしかしたら、手を握る度にホラー映画の恐怖を思い出すかもしれないけど。そう心配事を告げる前に、ボッと暦の顔が赤くなった。そのまま黙り込む。(あっ、ヤバい)暦、ショートしちゃった。


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