筋トレこじろー

 何故か突然、虎次郎が筋肉トレーニングを始めた。「なにやってるの?」「おっ、ちょうどいいところに! ちょっとの間だけ、俺の上に乗ってくれるか?」人がいないからいいものの、そういう趣味でもあるのだろうか? 虎次郎の家の中である手前、家主のいうことに従う。(ボードについて、色々と話にきただけなのにな)自分のボードを抱え、虎次郎の背中に乗る。私を座らせたまま、腕立て伏せを始めた。(なにこれ)虎次郎の家の電気を借りてカーラの充電をしていた薫が、戻ってきた。「うわっ」完全に引いている。どちらかといえば、私を重石にしている虎次郎に引いているようだった。
「なんだ、この原始人。普通、筋トレなんか急に始めるか?」
「ふっ、ほっ、いや、ふっ、最近、はっ、筋肉が、んっ! 鈍ってた、ように、ふっ! 思って、な!」
(ゴリラというのも納得してしまうような気が)
 しかも、腕立て伏せをしながら器用に話している。救いを求めて薫を見る。薫はドン引きしたまま、目を合わせていた。「そもそも応えたお前の責任だろうが」そう目で突き放しているようにも見える。酷い。しかし事実ではある。上半身裸の虎次郎の背中の筋肉は中々固く、本人の動きに合わせて凹凸動いていた。特に肩甲骨がすごい。
「××に頼んで、ちょっと、乗ってもらったところだ!」
「普通、それを本人に頼むか?」
「つまりつまり、私は重いと?」
「いや!?」
 驚いた虎次郎が突然止まる。肘を曲げた状態で、肩越しに私を見上げてきた。
「断じてそういうつもりじゃなくてだなっ!? なんっつーか、バランスだよ! バランスの問題!! 体幹も同時に鍛えたくてさ」
「そうなんだ」
「で、コイツの揺れ具合からするに鍛えられていないと。無駄ゴリラが」
「んだと!?」
「わっ!?」
 虎次郎の身体が床に降りたと思ったら、立ち上がった虎次郎にお姫様抱っこされている。(なんだこれ)そしてするっと床に立たせて、ドスドスと薫へ近付いていった。「多少揺れるのは仕方ねぇだろうがッ! 陰湿眼鏡ッ!!」「揺れてる時点で全然鍛えられておらんだろうが! ナンパゴリラッ!!」「んだと!?」「あ!?」最早言葉無用、睨み合いで始めてしまった。どうしよう、本気でボードの相談をしにきたのに。どうしてこうなったのか。いや、二人が喧嘩するのはいつものことだろう、うん。
 頭を抱える。虎次郎の用意したウィールを見ると、どれも一癖ある。虎次郎の板を見ても、これで滑れるのが不思議なくらいだった。「うぎぎ!」睨み合いが続いている。薫の持ってきたトラックで組み合わせると、どうだろう。これは結構傷が付いていて、サンプルと呼ばれても納得できた。練習の痕が刻んだ、溝を撫でる。
「そういえば」
「なんだ!?」
 睨み合った状態で声をハモらせる。(やっぱり、仲がいいんじゃ?)けれどお互い喧嘩をするし、そうというものならばキレる。ここは黙って流しておいた方がいいだろう。虎次郎のものはわからないけど、薫のものは手元にある。
「スケートをしてから、結構長いの? なんか薫のこれ、数年前に使ったような気がするから」
 そういうと、薫が黙った。スッと袂に手を入れ、腕が上がると同時に袖が落ちる。「いや」眼鏡を掛け直そうとしている。不審に思った虎次郎が、薫から私に近付いた。グイッと身体を屈め、私の手にあるトラックを見る。
「あっ。これ、高校んときに」
「いうなッ!!」
 恥ずかしさを暴露されたくない薫が叫んだ。


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