ダブル・ブッキング(+温泉組)

 何かしらのタイミングで二人と出掛けることとなり、沖縄の地を少し離れる。「いいや、俺とだ!」「俺とだッ!!」「滑る相手が多い方がいいんじゃない?」それでさらに話が拗れた。なんやかんやありつつも一緒の便に乗り、島に着く。「温泉、楽しみだね」公道で滑りながら、新参者はいう。「その前に仕事を済まさねばならんが」そう薫が続けていう。地面をキックした虎次郎が、新参者の横に並んだ。ウィールの転がる音がする。「じゃぁ、一緒に観光でもしよっか!」すかさず誘った虎次郎に、間髪入れず薫が並んだ。「お前はどっかに行けッ!! タラシゴリラッ!」足首を狙った蹴りが炸裂する。反射的に避けたものの、虎次郎がキレた場所は違った。「あ!?」振り向きざまに薫を睨む。「だったら一人にしておく気かよ!?」「当然だッ!」キレた虎次郎にキレた薫が返す。またしてもいつもの繰り返した。いがみ合う二人の間から抜けるように、新参者はボードで滑る。「あっ」見えた砂浜の光景に、スピードを落とした。ターンをしようとする。
「暦たちがいる」
「なに?」
「おいおい、マジかよ。奇遇だなぁ」
 二人の間を通り抜けようとすると、虎次郎が止めに入る。「おい」鋭い視線が新参者をハグした身体を睨んだ。それでも止めない。「下ろして」ムッとした新参者に睨まれれば、素直に下ろした。ボードごと後ろに下がる。地面に着地した新参者は、停められた自分のボードを拾った。薫は既に、新参者のボードがあった場所にまで下がっていた。この騒動を見て、暦たちもメイク動画の撮影を中断する。
「あっ、ジョーとチェリーだ」
「あ、××さんもいる」
「どうせ三人だけで遊ぼうとでも思ってたんじゃない?」
「三人って、あの二人は仲が悪いんだぞ? どうせ、喧嘩している間に三人で行くことになったのがオチだろ」
「うわぁ、ありそう」
「どういうこと?」
「痴話喧嘩は犬も食わないってことでしょ」
「聞こえてるぞ!!」
 二人の声が重なる。当の話題に上がった本人、薫と虎次郎である。同時に身を乗り出し、ミヤの発言を否定した。「本当じゃん」新参者は呟く。ショックを受けて振り向いた二人に関わらず、新参者は肯定した。「犬も食わないほど、喧嘩しているし」それに否定も肯定もできなかった。──確かに、数えきれないほど喧嘩をしているが、そうではない──。「だからといって」「痴話喧嘩ってのは、例えとして適切じゃないだろ!?」そういわれても、新参者にはピンとこなかった。
 ボードに乗り直し、距離を稼いでトリックを決める。階段から飛び降りた新参者は、柔らかな砂浜に着地した。薫は大事そうにカーラを抱えて降りる。虎次郎は距離が足らず、テールを弾いて脇にボードを抱えた。薫の後に続いて降りる。
 先に砂浜に着いた新参者は、四人に尋ねた。
「ところで、四人はどうしてここに? シャドウは、また付き添いで?」
「またってなんだ! またって!!」
「まだ高校生だからさぁ、俺ら。付き添いの人がいるくて」
「ミヤはまだ中学生だし」
「まっ、仕方ないよねぇ」
「お、ま、え、ら、な!!」
「まぁまぁ、店長から休みは貰ったんだろう? いいじゃねぇか!」
「よくないッ!!」
「またタダ飯食いをするつもりじゃぁ、ないだろうな? 今度はやらんぞ」
「えっ、なんで!? ママ、ひどぉい」
「誰がママだッ!! 誰がッ!」
「薫じゃない?」
「おい!! お前までコイツらに乗るな!」
「えっ、つまりジョーやチェリーたちも此処に泊まるってこと!?」
「まっ、そういうことだぜ」
「ウィンクをするな。気持ち悪い」
「えっと、つまり暦たちは既に宿泊済み?」
 四人の様子から、新参者は推測する。格好は島に合わせてラフなものだし、荷物が少ない。ほぼボードのみだ。「うん。昨日来て滑ったところ」「滑った」ランガの口から出た言葉に、新参者は食いつく。ピクッと薫と虎次郎も反応した。これに味を占めた暦が、話を続ける。
 クルッと背を向け、頭の後ろで手を組みながら、聞こえるようにいった。
「小さいけどスケボーショッピングがあってさ。そこの店主に教えてもらったんだよなぁ、この辺りで滑れるところ」
「なに!?」
「うん。自分でパークを作ってて、凄かったよね」
「へぇ。中々良いところだな。で、場所はどこになる?」
「店の場所はいいけど、教えてもらったスポットはちょっとなぁ」
「そこの店主に話を聞いた方が、早いんじゃない?」
「アーッ!! せっかく揺さぶりをかけているってのに!」
「馬鹿スライム。それをいったら意味ないじゃん」
「というか、チェリーに揺さぶりをかける時点で勝ち目ないだろ。あのAIスケーターだぞ?」
「そこの名刺とかはないのか?」
「あっ。貰い忘れた」
「あー、まっ、滑ってるうちに辿り着くだろ」
「検索でかければ、あっ。あった」
「カーラ」
『仕事が一件入っています』
「クソッ、やはり難しいか」
「じゃぁ、明日に回す?」
「なら、俺と滑ろうぜ!」
「フンッ!」
 間髪入れず新参者へ誘った虎次郎に、薫が蹴りを入れた。綺麗に虎次郎の臀部にヒットする。「あーあ、まただよ」「すごい。これが『コント』の流れみたいだ!」「うーん、違うとも言い切れないのが難しいところだなぁ」「これを残り一日で見ることになるのか?」行動を共にする以上、このリレーを見ることは避けられない。どんとはれ。


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