ばれんたいんの不覚(DK)

 二人の戦績がゼロという結果に、開いた口が塞がらなかった。どうした、お前ら。いつもあんなにたくさん貰ってたじゃん。そう尋ねれば「フンッ!」と勢いよく顔を反らされる。しかも同時にだ。(仲良いなぁ)と思いつつ、理由だけを尋ねる。
「で、結局は? 下駄箱の雪崩、凄かったじゃん」
「要らん! 全部アイツらにくれてやった」
「そこまでいうこたぁねぇだろ!? あれ、全部女の子たちが気持ちを込めて作ったものだったんだぜ!?」
「だったら、お前は全部受け取ればよかっただろうが!!」
「そうせざるを得なかったんだよ!」
「はぁ!? 真似するな!!」
「そっちこそ真似してんじゃねぇよ!」
 またいつものど突き合いである。別名、喧嘩ともいう。(またかぁ)と思いつつ、時間を見る。とりあえず、暗くなるまで時間はある。どこかで寄り道をする余裕はありそうだ。「で」と薫が尋ねてくる。虎次郎との喧嘩は、もういいのか。
「お前、チョコはどうした。勿論、用意はしたのだろう?」
「なんでそう自信満々なの? ないよ」
「はぁ!? 一大イベントだってぇのに!? 教室中、甘い匂いがしまくってたじゃねぇか!!」
「確かに美味しそうだったけど。先生に没収されていた子たちも多かったし」
「あぁ、この時期になると締め付けが酷くなるからな」
「そうでなくても、お菓子の持ち込みがバレると普通に没収されるし」
「だっ、だからって。せめて、隠し持ってるとかよぉ」
「だったら溶けてなくなっちゃってるでしょ」
 そういうと、虎次郎が「そうかぁ」とあからさまに肩を落とした。なんだ、その落ち込み様は。薫といえば、ずっと無言である。しかし、この顔色だ。恐らくは虎次郎同様、チョコを期待していたのだろう。(まったく)と思いつつ、二人に話した。
「そんなに手作りチョコが嫌だったの? 下駄箱の中とか、色々」
「そっ、そうだ! 下手に貰うと、なに入ってるかわからないからな」
「あっ、思い出しちまったぜ。変な鉄の味がするチョコレートに、爪やら髪の毛入りの」
「可哀想すぎる。ひ、一夏の思い出にしておこうね」
「冬だけどな。今」
「ひ、一冬だと逆に酷くなりすぎるような気がして」
「充分にヤバイぜ。ホラーだ、ホラー。今度から、貰うときは軽く確認するとするかね」
「そうした方がいいと思う」
「フンッ、だから筋肉ゴリラはこれだから。知能が低い」
「あ!? なんかいったか!?」
「あー、もー。とりあえずコンビニ行っていい? なにか買うから」
「なにッ!?」
「買ってくれるのか!? チョコを!」
「食いつき良すぎ!! とりあえず、チョコでも甘いものでも食べて落ち着きなよ。脳に糖分は大事だし」
「大事に選んでくれ」
「コンビニチョコなのに?」
「気持ちが籠っている方が嬉しいぜ」
「チロルチョコでも?」
 そもそも学生で買える範囲を考えてほしい。(だから皆、手作りで気持ちを渡しているのに)それはそうと、血やら爪やら髪入りは流石に困るが。チリッと胸が痛みつつ、コンビニに入る。二人はコンビニの前で待っているようだ。(面倒臭いから、ココアとかチョコレートの入ってるドリンクでもいいかな)この時期に固形のチョコを渡すことは、ちょっと古傷が痛む。
 レジでココアとボックスチョコを買う。同じ物だと喧嘩をするから、同じ値段で違う種類のを買って、よし。足りた。袋に詰めてもらって、コンビニを出た。大人しく二人が待っている。
「はい」
「んっ、助かる」
「おっ、サンキュー!」
 意外とすんなりいけた。でも渡して、それでお礼をいったからか「真似するな!!」「そっちこそ!」とまた喧嘩をし出した。いつものことである。ボックスチョコの蓋を開けて、中のチョコを食べる。やはり、この味が美味い。「あっ」と虎次郎が固まる。「あぁ!?」と薫が食ってかかったあと「ハッ!!」となにかに気付いたように止まった。もぐもぐともう一口食べる。二人の視線が、手元のチョコに刺さっていた。
「ん? 食べる?」
 尋ねてみたら「それは、どういう意味でだ」と薫が尋ねてくる。そういう意味は、そういう意味だよ。柔らかく溶けるチョコを味わう。虎次郎も虎次郎で「そういう意味なのか?」と尋ねてくる。だから、食べればいいじゃない。一人ずつ手に握らせる。二人して一個のチョコレートに、釘付けになっていた。


<< top >>
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -