Short, Short, Short_Log

天津風

 あなたの姿を探す。愛しさが込み上がり、胸が熱くなる──というような体験に、苦い思い出しかない。ジョーやチェリーのファンに、熱烈な思いを寄せる者を見つけて、その苦さを思い出した。「もし告白されたら、どうするの?」流石に滑るときはファンたちが遠方へ下がる。薫は即座に「断る」と返し、虎次郎は「うーん、どうしようかなぁ」と間を置く。流石は女好きのナンパ野郎。引き延ばすのが上手い。「これだからタラシゴリラは」「気持ちは受け止めなきゃぁな」睨む薫に対し、胸を張る。とはいえ「答える」とは返していない。難儀なものだ。煮え切らない答えを送られる身を案じ、新参者は気分が落ち込んだ。


村雨

 霧の中を滑る。視界良好ではない。手探りでコースを把握し、トリックを決める。「あっ」ウィールと足が滑り、背中から地面に落ちた。コンクリートは痛い。肘と腕に擦り傷ができ、暫く服を着るにもシャワーにも困った。「で」薫がジロリと睨む。「怪我をした、と?」「そういうこと。暫くは軽めのトリックだけに留めておくことにするよ」「それより安静にしていろよ」思わず虎次郎も呆れてしまう。ガサゴソとポケットの中を探し、探し物を見つけた。「ほら」絆創膏を渡す。首を傾げる当人に、虎次郎はいった。「指のところ、怪我してるぜ」「あっ」それで気付く。薫は頭を抱えて、溜息を吐いた。幽玄の時は続く。


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