馬鹿みたいな量(じょとちぇと温泉組)

 なんか、虎次郎に誘われたから行きたいところに連れて行ってもらった。場所は最近、男子高校生や食べ盛りの年頃にとって一番人気の店らしい。そこでデカ盛りアイスやらを頼んでみた。体格の良い虎次郎のことだ。「ドーンと、なんでも好きなものを頼んでくれ!」の頼もしさはどこへやら。今は目の前のアイスに頭を抱えている。料理人として、一言物申したいんだろう。
「馬鹿か?」
(うん。それは私も思った)
 なにせ、馬鹿みたいにデカい。まるで業務用アイスを一箱全部、ポンポンッと乗せたような感じだ。というか、それそのものである。合わせて四段、下に心許なくアイスの容器がある。(というか、ここまで無事持ってきたことが奇跡)ウェイターの腕に拍手を送らざるを得ない。「はぁあ?」とオーナーシェフとしてあり得ないものを見た虎次郎は、未だに頭を抱えて蹲っている。目の前のアイスの山を、直視しようとしない。
「食べれる?」
「すまん。舐めてた。これは、全部食べるとなると腹を壊すな。食べるなよ?」
「なら、虎次郎が全部食べれるの?」
「いや、この量だと確実に腹がピーピーいう」
(ぴーぴー)
「こんなときは、気軽に腹が壊れても大丈夫なヤツに限る」
「いるんだ、そういうの」
「いや、確実に腹は壊すだろうな」
(うん?)
 どういうことだ? と疑問に思ってたら、虎次郎はもう連絡をし終えたらしい。「食おうぜ」といって、付属のスプーンを手に取った。「うん」とだけ頷く。背中に鬼を宿す筋肉の持ち主であっても、中々アイスの山は削れない。「下から行った方がいい?」「いや、バランスが崩れるから、やるならトップだな」と大人が二人掛かりで苦戦していたら、助っ人が来た。薫である。心なしか、髪と着物が乱れている。肩で息をしていた。
「なっ、にをしているんだ」
「デート」
「アイスと格闘中」
「わかった。その筋肉ダルマは後で俺がぶちのめす。今はそのアイスをクリアするのが先だな?」
「俺をぶちのめす前にトイレへ駆け込むんじゃないのか? まっ、人手は多い方がいい。協力してくれ」
「三人で、ようやく食べきれるほど?」
「いや、これだと頭がキンッと冷えてしまうな。よし、ここは他の物も頼もう。ホットケーキでいいか?」
「うん。ホットケーキがいいな」
「あっ! ここじゃ俺の奢りなんだぞ!? お前は除くが」
「なるほど、なるほど。お前の分は支払わなくてもいいと。それは感謝のしようがない。俺の財布の負担が存分に減る」
「つまり宙の浮いた私の分は、自分で払えと」
「いや、払わなくていい」
(だから、なんでそうも息を合わせるの)
 せっかくだから、全員でシェアできる方がいい。そう思って、同じ系列からホットケーキを頼む。すると、今度は一テーブルを占拠するほど、大きいホットケーキがきた。大体、中華テーブルの回るヤツに匹敵する、それくらいの大きさだ。その皿の上に、全体を収めた分厚いホットケーキの山が積み重なる。虎次郎がまたしても頭を抱えた。
「馬鹿の特注品かよ」
「カーラ。これはいったい、総カロリー何カロリーになる?」
『計算した方がいいでしょうか?』
「どうしよう。あっ、一名心当たりがいた」
「え!?」
「いるのか!? こんな量を一気に食らう、大食らい野郎が!?」
「うん。話で聞いただけだけど、多分あの子たちなら大丈夫かな、と」
「は? 『たち』?」
「うん。たち」
「っつーと、二人もいるって?」
「いや、一人。その子も協力してくれると思うけど。男子高校生の食欲に頼るといいかな、って」
「おいおい。待て待て待て待て。いったいいつのまに、そんな年下と仲良くなった!?」
「手を出したら犯罪だぞ!? いや、相手が大人になるまで待つってなら、まだなんとか、うん、ギリギリ応援はできるが。とにかく、今手を出すのはナシだ!!」
「どうしてそう前提なの? 違うよ。ただ、スケートで仲良くなっただけ。二人と同じような感じだよ。あっ、きた」
 いきなり食いついて、本当。二人に説明しながら、返信を見た。おっ、乗り気。他にも二人いるけどいいですか? って聞いてきた。(文章だと、丁寧語になるんだな)因みに件の食いしん坊は断定系である。日本語の使い方を見ると、多分帰国子女らしいけど。「本当に、手を出してはいないんだな?」と念を押す虎次郎に「虎次郎じゃないんだから」と返す。「だとさ。日頃の行いを恨むんだな」と次は薫が挑発した。あーあ、だから喧嘩になると。口を挟む間もなく、喧嘩が始まった。けど、喧嘩の仕方がアイスやホットケーキの早食いだから、結果として収まったけど。馬鹿な二人が寒さに小休憩を挟むことによって。
 お店の人に聞いて、ブランケットを二枚出してもらう。急なアイスの早食いは急激な体温低下を招く。「わ、わるい」と素直に謝る薫と違い、虎次郎はギュッと手を握ってくる。寒さに凍えているにも関わらず「お前の愛情で温めてくれないか?」と口説いてきた。逆に、ここまでくると呆れてしまう。
「雪山で遭難しても、そうなの?」
「安心しろ。逆にヒグマを倒して山を下りてくるだろう。この男は」
「っつーか、そもそも冬場に素人が無断で山に入っちゃダメなんだぜ? 知ってたか?」
「わかった。急に体温が下がって頭もビックリしていることはわかった」
 こうも毎回大人しかったらいいのに。と思ってたら、頼みの綱がきた。レキとランガと、あー、天才少年と誰だっけ? 引率の先生かな? と思ってたら、目をキラッキラと輝かせたランガがビュンッとこっちに来た。既に新しいスプーンを握っている。
「あの。これ、全部食べていいんですか?」
「うん」
「うわっ、なにこれ!? こんな炭水化物と砂糖の暴力、食べる方が馬鹿でしょ」
「おい! こら!! お店の人に失礼だろうが!」
「うっひょぉ! こういうの、男子高校生にとっちゃ夢のような量だぜ!! なぁ、ランガ! どっちが先に食い終わるか、勝負しようぜ!?」
「あぁ!」
「うへぇ。僕はこっちで、のんびりとホットケーキでも食べさせてもらうよ。うわっ、それにしてもデカいな。これ」
「正にカロリーの暴力! 蜂蜜の量も、いったい何瓶使ったんだ? これ」
 といいながら、各々食べ始める。というか、ランガの食べ方が速い。もう私たちだけではクリアできなかった山を、半分まで食べ終えていた。「くっそぉ! 負けてらんねぇぜ!!」と暦も対抗心を燃やして食べる量を増やしている。
 リタイア組は、ボーッと見ることしかできない。
「若いって、すごいねぇ」
「いやいや、俺たちもまだ若い方だろ?」
「下ネタをいったらぶっ飛ばすぞ。筋肉ゴリラ」
 薫が先に釘を刺した。


<< top >>
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -