寒い(ちぇ)

 沖縄の冬は滅多に寒くならない。防寒具が必要となる事態は非常事態だ。室内着の着物を着た薫は「寒い」「寒い」と呟きながらブランケットを肩から被る。ケープ代わりだ。「それ、私のなのに」××が不平不満をいっても、聞く耳を持たない。薫は××以上に寒さに弱かった。沖縄の外から来た人間ほど、冬の寒さへの対策を用意していなかった。「なんだって、急にここまで寒くなるんだ」ブツブツと文句をいいながら、××へ近付く。「さぁ。急な寒波が来たからじゃない?」タブレットで天気を調べながら、××は告げた。「それは俺のだ」「必要なところ以外は触ってないから、いいじゃない」「なら使用料を頂こうか」守銭奴とドケチの性分が、ただでは起きぬと告げる。薫が後ろから、××を抱き抱えた。スポッと腕の中に収まる。これで肩と背中、正面の温かさは保証された。
「はぁ、ぬくい」
「薫から、そんな言葉が出るなんて」
「なんだ。俺は全国から仕事を請け負っているんだぞ。接待でそういうのを聞く機会など、たくさんある」
「そっか」
「だから、こういうときに使う言葉なものだろう」
 ぬくい、ともう一度××の頭の上で呟く。身の丈一八〇以上もあるのだ。顔へ寄せるとしたら、身体を屈める必要がある。今の桜屋敷は、それをするつもりはない。ただ××の体温で温まりたいのだ。肌と肌の触れ合いではなく、精神的な安らぎを求める方での意味だ。××の身体へ全体重を預け、頬を乗せた。頭と全身にかかる重さに、××が反抗する。
「重いって」
「耐えろ」
「薫と私の筋肉の量、考えてみて? 薫、鍛えてるでしょう?」
「お前よりはな。無論、力もいうまでもなくある」
「だよね?」
「だからなんだ」
「私、倒れるって」
「知っている」
「あぁ、だから」
 薫が重心を前へ傾ける。自覚している分、性質が悪い。××の両膝が、床に着いた。咄嗟に手を床に着ける。もう片方の手で、肩を抱く薫の腕を掴んだ。足の長さが埋まる分、身長差も少しは縮まる。支える××の上で身体を丸め、肩を離す。××の手の横に手を着き、残る腕で腰を抱えた。「ふぅ」と耳元へ息を吹きかける。「ちょっと」薫の行動に、××はムッとする。床に肘を衝いて、覆い被さる薫の肩を叩いた。
「今は、そういうことをしているところ?」
「あぁ。今はオフだからな。今日くらい、家でゴロゴロとさせてもらおう」
「床で?」
「それは断る。カーペットかソファ、もしくは布団がいいだろう」
「こんな状態でいわれてもなぁ。説得力がないよ」
 といいながらも、××は体勢を変える。正面から身体を横たわらせ、横向きになった。薫も続けて横向きになる。フローリングの床は冷たい。「床暖房」「そんなもの役に立たん。ここでは不要の産物だ」「他には?」「台風や潮風でメンテナンス代が掛かって赤字になる」「そう」「あぁ」「沖縄って、他と違う建築をしているもんね」「あぁ」と会話を交わす。その間に、薫の手が××の身体を弄った。もぞもぞと、さらに温まる場所を探す。
「ちょっと、薫。もう、こら」
「オフくらい好きにさせろ」
「こんなところでやるのは、ちょっと」
「興奮する身体に文句をいえ」
「それは、誰のせい?」
「俺だな」
「そう自信満々にいわれても」
 上半身を少し捻らせて、薫と正面を向く。××と目が合っても、薫は顔を近付かせない。そういう気分ではない。チリッと手の甲を抓られると、薫の眉間に皺が寄る。心持ち眉が釣り上がった。生身の肌に手が触れると、××の身体がビクリと跳ねる。
「俺は暖を求めているまでだ」
「やり方が、ちょっと」
「ヤりたいのか?」
「そう直接的に聞かないで。ムードがないなぁ」
「欲しいとでも?」
「気分にもよる」
「ほら見ろ」
 俺のいったことが正しい。とばかりに鼻を鳴らす。ふんぞり返る薫に、××は呆れた。「もう」手付きもそうでない以上、××も反論することもできない。本当に、身体を温める場所を求めたまでだった。とはいえ、触る箇所は際どい。
「体温のよく集まる場所に、よくわかったね」
「恒温動物なら、血管の集まる場所に熱が集まるものだろう?」
「動物扱い。狩猟とかサバイバルの参考にもなるね」
「雪山だと、小屋か洞穴に立て籠もるしかないだろう。間違っても行きたくないものだが」
「スケボーや、スキーには?」
「興味はあるが、行く機会はない」
「そう」
 身体を楽にし、××は身体を正面に戻す。時折薫が首へ噛み付く真似をするが、気にしない。甘噛みで甘えているだけだ。痕を残さないよう加減をしているので、××は好きにさせた。犬歯を軽く突き立て、小さな痕を残す。ほんの一瞬だけ残ったが、すぐに戻った。あむあむと噛む。「薫って」××が気恥ずかしさで、話題を出した。
「吸血鬼になったら、何度も吸血しそう」
「なんだと?」
「ほんの少量だけ吸って、何度も牙を立てるの。それで痕が付く」
「馬鹿なことをいうな。俺は吸血鬼じゃない」
「例えばの話」
「例えた話にしても」
 ××の言葉尻を捕らえ、薫は言い返す。首から口を離し、ジッと××を睨んだ。
「吸い尽くす前に眷属にしてやる。当然だろう」
「それ、当然なの?」
「あぁ。俺から離れることは、許さんからな」
「意外と束縛が強いんだね」
「お前がフラフラとどこかへ行くからだ。阿呆」
「また噛んだ」
「こうでもしないと、わからないだろ」
「まー、うん。そう、そうだけど」
 なんか肯定すると違う、と××は疑問に思う。カプリと噛み、また首筋に歯を立てる。痛みで不服だと伝えることはわかるが、だからといって痛いことが好きなわけではない。「エッチなことじゃ、ないからね?」「シたいのか?」「薫は?」チラッと相手を見る。「お前がいうから、したくなってきた」正直だ。引き返すなら、今のうちである。ジッとお互いに相手を見た。××の目と、薫の蜂蜜色の瞳がかち合う。「するか?」「うーん、ムードがないなぁ」「なんだ。それが欲しいとでも?」「緊張するから、やっぱり要らないかも」そういわれると、余計に反抗したくなる。薫はムッとし、立ち上がった。軽々と××を横抱きにする。
「どうだ」
「うーん、やっぱり薫って筋肉が付いてるんだね」
 相手との筋量差を実感するのみである。寝室に向かう。普段との慣れ合いの延長で、肌と肌とを重ねた。


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