飛行機に乗る空港に着いた話

 東京で少し調べものがある、ということを呟いたら「なら、一緒に来るか?」と薫にいわれる。「えっ」「ちょ、ちょうど向こうで仕事があるんだ! なにも、誘ってるわけじゃない」「なら、一緒に乗ることでお得なパックがある、ってこと?」「そ、そういうことにはなるが」「じゃぁ、三人パックのを使うとお得だなっ!」「は?」視線を右往左往させて、扇子で口元を隠す。そんな動揺を見せた薫の声が、一気に冷たくなった。トーンも下がる。そこからいつもの喧嘩となったが、割愛。そういうわけで飛行機に乗り──エコノミークラスでなくファースト暮らすなため、どっちがどれに乗るかで揉める。無理矢理薫と虎次郎を同じ席に乗せ、ようとしたら僅差で薫が勝った。「汚ぇぞ! 卑怯眼鏡!!」「どうせ機内で客室乗務員をナンパする癖に!」「キャビンアテンダントだッ!」どうやらこだわりがあるらしい。薫のいった通り、虎次郎もリップサービスと称した口説きをCAさんにしていた──。こうして飛行機を乗り終え、空港に降り立つ。辺り一面は白い。雪景色だ。カーラが途中で『雪による便の乱れが生じる可能性があります』といった通りだし、虎次郎が「そこまで影響は及ばさないってさ。今のところ」といった通りだ。薫はまだ眠いのか、寝惚けている。「眠い」「ちゃんと着込まないと、寒いよ?」「全く、北に行くだけで大違いだな。見ろよ、雪だぜ!」「下らん」それとも、雪自体は降ってないと思っているのか。「カーラ、今の気温は」『氷点下を下回っています』「なに、そんなに!?」「だから雪が降ってるっていってるじゃないか」「そんなわけないだろう」「薫、もう東京。雪が降り積もっている」「お前まで」なにを馬鹿なことをいうんだ、との視線が私を差す。そのまま外へ向いて、空港の滑走路に積もる雪を見て目を見開いた。薫の足が止まる。明らかに、固まった顔だった。
「な、んだと?」
『マスター、現在の服装だと体調を崩す恐れがあります。空港内で必要なものを買い揃えた方が良いかと思います』
「ありがとう、カーラ。ここまで積もるものとは」
「あぁ、沖縄だと雪が降らないんだっけ? 触ると冷たいよ?」
「そんな小学生みたいなこと、するかッ!」
「えー、でも触りたくないか? 地元じゃ滅多に降らないんだぜ。雪!」
「阿呆ゴリラが。俺は仕事に来たんだ。遊びに来たんじゃない」
「俺だって仕事のついでだ。ちょっと、東京のイタリアンや食べ歩きできるものを研究にな」
「東京の方が色々と揃ってるもんね。かくいう私も、ちょっとそれが入ってるし」
「よって、ゴリラに付き合う暇はない」
「付き合いの悪いヤツだなぁ。って、それだと滑る場所が屋内に限るか」
「あっ。本当だ」
「それは不都合な。カーラ、近場で且つ仕事に影響を及ぼさない場所を」
『銀座和光がオススメです。他にも伊勢丹やユニクロもあります。他にも検索しますか?』
「いや、いい」
「へぇ。色んな店があるんだ」
「おっ、いいな。一緒に行かない?」
「途中で回るだけなら。私も一人で見たいし」
「おい。××は俺と行くんだぞ」
「いいや、俺とだ! 勝手に決めるんじゃねぇよ。狸眼鏡」
「なんだと?」
「やるか?」
「カーラ。本当に、薫の仕事の方は大丈夫なの?」
『今回の旅費は向こう持ちです。ですのでマスターに寛いでゆっくりと来てもらうために、予め打ち合わせをして、早い時間に着くようにしています』
「そっか。じゃぁ、少しくらい遅れても平気だね」
「誰が遅れてるか!」
「俺の方が速い!!」
「そっちの方じゃないよ」
 いつのまにか、どっちが速く滑れるかのスケボー対決になっていた。


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