ワイヤレスイヤホンに(+温泉組)

 滑りに集中するためにワイヤレスイヤホンを買うスケーターもいると聞くけど、今一どれがいいのかはわからない。(家で使う分には、ヘッドフォンでも充分だし)それと、スケートしている最中に落ちる可能性もある。そっちの方が怖い。なのに、だ。買うのを悩んでるこちらを無視して、二人は各々使い出した。
「えっ、持ってるの? そういうの?」
「当たり前だ。煩い外野の声も聞きにくくなるし、カーラの声も充分に拾えて一石二鳥だ」
「それ、もしかして特注品?」
「俺は流石に集中したいときに限るかなぁ。俺を応援するシニョリーナたちの声も聞きたいし、ねっ」
「わぁ。ジョーったらさり気なくファンの子にアピールしてる。やっさしー。流石生粋のモテ男というより、女タラシ」
「あぁいう悲鳴こそ、真っ先に除去すべき対象だ」
「はぁ? 妬いてんのかよ。モヤシ眼鏡」
「誰がモヤシだ。脳筋ゴリラッ!」
「邪魔なんだよ! 俺が先に滑ろうとしたんだぞ!?」
「俺の方が先に入ったんだ! お前が後ろに回れ!! 原始人!」
「先着順で勝手に決めんじゃねぇよ! 横着眼鏡ッ!」
「先に入った方が優先されるのは当然だろう。阿呆ゴリラ!」
「はぁ!? なぁにいってんだ、この卑怯眼鏡はッ!」
「そっちがなにをいってるんだが」
「んだと? やるか?」
「受けて立とう」
 そもそも、イヤホンしてたらしてたで新たな火種になりそうだよな。と思いながら薫と虎次郎を無視して滑りに行く。「あっ、ちょっと!?」「俺が先に滑る予定だったんだぞ!?」虎次郎はちょっとシニョリーナに置いて行かれたときのような声を出しているし、薫は相変わらずだ。無視して先に滑る。うん、クレイジーロックのパークは相変わらず整備されていた。流石愛抱夢。スケーターたちに必要な設備や道具は、完璧に揃えているなぁ。(一体、どこからその資金を捻り出しているのか)深く首を突っ込まない方がいい、事案な気はする。
「考え事をしながら滑ると、危険だぜ?」
「えっ!? そんなに覚束なかった!?」
「いつもより進入角度が二十七度も甘かった」
「重症じゃん。えっ、今度気を付けよう」
「それでも取り戻せた、ってのがなんだかなぁ」
「普段の反射神経に感謝するんだな」
「うん、そうする」
 いや、そこまで角度が甘すぎると怪我の危険性がデカすぎてヤバいわ。ハハッ、としか乾いた笑いが出ない。自分のボードのノーズ部分を触り、二人に場所を譲る。うわっ、スライドのし過ぎでヤスリをかけたみたいに滑らかになっている。こうしてボードは摩耗されていくのだなぁ。と二人のテクニックを見ながらそう思う。ふと、暦たちが話しかけてきた。
「××さん! さっきの滑り、凄かったぜ! なんか見ていて、ハラハラした!」
「うん。それは、不安っていう意味で?」
「ちょっとあった」
「考えながらだと、怪我の危険性が高まるよ」
「うん、気を付ける」
「に、しても相変わらずだなぁ。あの二人。また喧嘩してたんだろ?」
「うん。あっ、MIYAはワイヤレスイヤホンとかあるの? ほら、滑るときとかに」
「あぁ、うん。貰ってるよ。スポンサーから。大会出場するときとかに身に付けて滑ってる」
「うわっ! 流石全日本代表、物持ちいいなぁ」
「ふふんっ! スライムたちとは違うからね?」
「いいなぁ。俺もたくさんのカロリーメイトとかお菓子とか貰いたい」
「こっちは別のこと考えてるし。食い物が貰えるわけねぇだろ?」
「いや、スポーツ選手に向けて商品展開している食品会社もあるわけだから、いけるよ」
「そうそう。お菓子メーカーが選手向けにエネルギーチャージできる商品も出してるからね。勉強が足りないんじゃないの?」
「こっ、この!」
「つまり、俺もスポンサーがつけばお菓子とかたくさん貰える!?」
「かもな。その前に、ミヤみたいに全日本に選ばれたりしなきゃなんねーけど」
 ハハッ、と暦も小さく笑う。まぁ、スポンサーが付くと色々大変なのだ。その企業の顔役、というのも今ではあるし。スパーっと煙草を吸いたくなる気分になったが、煙草が苦いことを思い出してやめた。
 パークの方に目を戻す。相変わらず、薫と虎次郎は喧嘩をしていた。


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