ある日のDOPE SKETCHにて(ラとレ、じょとちぇ)

 久々にスケートをしたい。と思ったら雨だった。沖縄は晴天が多いとは誰がいった? 曇天から雨雲へ変わり、地面が濡れる。「屋内のパークとかどうだ?」と虎次郎はアドバイスしてくれるが、その。距離が短いのだ。「だったら回し系やエアー系のトリックの練習に使え」と薫もアドバイスをしてくれるが、その。ただただ滑りたいのだ。よって、指スケを買うことにした。これなら、家の中でも距離を稼げてトリックの練習もできる。でもネットで探すと数が少ないので、直接スケボーの専門店に行く。場所はDOPE SKETCH=ASのスケーターたちも御用達する店だ。岡店長が専門的にメンテナンスしてくれるので、この点でも頼りになる。傘の水気を払って閉じて、店の中に入る。キョロキョロと傘を入れる袋を探していると、暦の呼ぶ声がした。「あっ、××さんじゃん!」ついでに「珍しい」との一言付きである。「どうしたの? なにか用?」と聞かれたので「うん、まぁね」とだけ。岡店長の姿を探していると、ランガに首を傾げられてしまう。「店長なら、今出掛けてるよ」えっ、マジで?
「嘘。本気で?」
「うん。本気で」
「ちょっと社長と話すらしくって、暫く店番を頼むーっていって出てった」
「うわぁ。お客さん、来たりしないの?」
「この時間帯、あまり来ないから」
「そうだとしても! 俺だってアルバイトだけど、ここの店員だぜ? レジくらいできるって!」
「じゃぁ、なにか聞かれたら?」
「勿論、答えられる!!」
「暦のスケートに詳しい知識が、お披露目される!」
「うん、ランガの日本語の知識が偏ってることは、わかったかな」
「そんなに? 俺以外にも使ってない?」
「うんうん、使ってる。使ってる」
「テレビとかバラエティだとね。はぁ、聞きたいことあったんだけどなぁ」
「なに? もしかしてなにか頼んでたの?」
「荷物の受け渡しとか?」
「じゃなくて、できるかできないかの相談かな。そういう客がいるかどうかもわかんないし」
「あっ、ボードのメンテナンスとか!? お客さんに合わせて一からボードを作るとかあるぜ?」
「まるで暦みたいだね! clever≠セ」
「えっ? クレイジー?」
「ノンノン、クレヴァー!」
「えっ。クレイジーじゃねぇの?」
「crazy≠カゃなくてclever≠セってば!」
「まぁ、聞き慣れないとそうなるもんね」
「そうなるって、どういうこと?」
「聞き覚えのある方に誤解しちゃうってこと」
「つまり。暦はclever≠ニ呼ばれたことが少ないってこと?」
「そういうこと」
「暦はあんなに、器用にボードを作ることができるのに?」
「えっ。ちょっと、俺のわからないところで俺の話を勝手に進めないでくれる?」
「とにかく、指スケを作れるかどうかを聞きたかったの」
「なんだ、そういうことか」
「どうやって話が飛んだの? そういうことなら、俺作れるぜ! 岡店長に聞かなきゃ、やっていいかどうかもわかんねーけど」
「うん。そういうところだから、いないと困るなって」
「えっ、だったらチェリーやジョーはどうなるの?」
「うん?」
「『いないと困る』って。チェリーやジョーはどうなるの?」
「え、ちょっと待って。うん?」
「んんっ? あ、あのさ。ランガ。ちょっと、話が飛び過ぎてわかんねーんだけど」
「だって、岡店長が『いないと困る』ってことは、チェリーやジョーはどうするんだって話で」
「どうして同列?」
「いや、そこに飛躍するのがわかんないんだって」
「ひやく? jump≠チてこと?」
「うーん、いやぁ、合ってるには合ってるけどさぁ!」
「えーっと、岡店長がいないと注文の時点で困るけど、チェリーやジョーがいなくなったら困るかな。これ、意味通じた?」
「うん。納得した」
「そっか、よかった」
「あれ? 今、なんか滅茶苦茶重要なことをポロリといってなかった!?」
「え? どういうこと?」
「暦こそ、なにをいってるの?」
「どーして俺が悪いって話になるのかなぁ!? もう!」
「誰も悪いとはいってないよ」
「そうだよ。暦は凄いんだってことに変わりはないんだから!」
「だからどうしてそこで俺を持ち上げることをいうわけ!?」
 あっ、流石に照れて噛みついた。キラキラと目を輝かせるランガに、それに照れて無理矢理話を終わらせようとする暦。時間を見るが、岡店長が帰ってくる気配がない。(仕方ない)ちょっと時間的な都合もある以上、楽な手を取らせてもらうか。
「確か、SNSをしてたんだよね? この店」
「あっ、うん。それもしてるはず。この前、岡店長触ってたし」
「なら、新たな客層を獲得できるってことで、SNSの方で告知してもらってもいいかな? 返信。それか、いや個別の方がいいか」
「え、どういうこと?」
「俺にもよくわかんない」
「あー、うん。まだ高校生でバイトだもんね。じゃぁ、今度打ち合わせをして。あっ、Sの方のアカウントもあったっけ?」
「それはちょっと知らない」
「俺も見たことがない。というか、Sのアカウントなんてあったりするの?」
「ランガくんは、やってたっけ?」
「多分やってないと思う。SNSもやらなさそうだし」
「なにをいってるの? 俺だってやってるよ! ほら!! ショートメール」
「うん。それはな?」
「連絡先を知ってる人だけとのやり取りだから。うーん」
「なに、違うの?」
「いや、違うんだけどさぁ。教えてもいいものやら、悪いものやら」
「どちらに転ぶかがわからない以上、教えるのも怖いもの、ってね」
「二人とも、なにをいってるの? そういうのって、波に乗るみたいな感じでいけば、大丈夫なんだよね?」
「暦、今度はなにを教えたの?」
「いや、クルーザーの説明をしたら波乗りってのも覚えちゃって」
「そっかぁ」
「一応、感覚的にはやると覚えると思う!!」
「サーフィンやるの?」
「やらない。暦は?」
「うーん、機会があったらやる!」
「そっか」
「とりあえず、書き置きを作るから伝言をお願いできる?」
「うん、いいよ」
「ムシャムシャ食べないように気を付けるね」
「うん。黒ヤギさんと白ヤギさんに例えれば食べないでね。気を付けてね」
「なにいってんの?」
 今度は暦にまでいわれた。散々である。とりあえず、メモ用紙を貰って用件を纏める。失敗したので、もう一枚を貰った。「先にメモした方がいいんじゃないの?」「書いた方が早いの」「書き終わるまでに、店長帰ってくるんじゃね?」「だといいのだけれど」そうこう話してる間にも、岡店長は帰ってこない。結局、書き終えたメモの伝言だけ渡して帰ることにした。(とりあえず、問い合わせでメールした方が早かったかなぁ)歩く手間もなかったわけだと思うし。
 傘を差してDOPE SKETCH≠ゥら出る。雨の中の帰り道を歩いていると、仕事から帰る途中の薫と会う。そこから拾われて、虎次郎の店で一息吐くことになった。相変わらず出されたものが美味しい。
「で、結局指スケは買えなかったと」
「戦略的に考えれば、理に適っているといえるが」
「巨大な屋内パークとかできないかなぁ、本当」
「維持費が馬鹿デカい。入場料が高い!」
「高さが決まってる分、派手なトリックがやりにくいのとパワー系が使えないってのもあるなぁ」
「壊すんだ」
「この馬鹿ゴリラは一度設備を壊しかけたことがあるぞ」
「さり気に流してんじゃねぇよ! 腐れ眼鏡!! お前だってとんでもない要求を通そうとした癖に!!」
「あれは予算が通れば設置されるはずだったんだ! お前と一緒にするな!! 脳筋ゴリラ!」
「一緒にしかできねぇだろ! ドケチ眼鏡!!」
「なんだと!?」
「やるか!?」
「後悔しても遅いぞ!」
「そっちこそ!! 後悔するんじゃねぇぞ!?」
「真似するなッ!」
「そっちこそ真似するな!!」
「はいはい」
 相変わらずの喧嘩である。


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