その後の対応(被害者)

 S専用のSNSで流れた情報に、××が固まる。「とんでもなくバズってるなぁ」と他人事のように眺めて開いたら、これだ。とても身に覚えのある会話や情報が羅列されている。(いや、確かに薫は高校生の頃グレてたって聞きましたけど!?)そこまで他人が情報を垂れ流すのは、どういうことか。プライバシーの配慮もないのか? 混乱しながら慌てて桜屋敷のアカウントを探すが、ない。それもそうだ。桜屋敷も南城も、このSNSにおいてアカウントを取得していない。南城はファンの子から人伝に聞くし、桜屋敷はダミーのアカウントを置いてカーラを通じて必要な分を取得している。つまり、ノイズの除去が上手いのだ。こうも頭の隅で分析しつつも、冷静にはなれない。震える手で電話番号を開き、通話をする。「あの、薫? あの記事、いやなんか感想文見た? なんというか、その」「御託はいい。お前もさっさと来い」どうやら向こうも混乱しているようだ。そこから同様に被害の遭った南城も同席でき、密談もできる場に集合となる。いつものSia la luce≠セ。流石に店主兼料理長の南城も、この使い方に喜んではいなかった。「はぁ」とさえ溜息が出る始末である。
「その、虎次郎の方はなんともなかったの?」
「ファンの子たちから、すごく質問攻めにあった」
「それはごめん」
「お前が謝ることか? それにしても、迂闊だったな。まさか、あんなところにいようとは」
『データを分析しますか?』
「いや、手間がかかるからいい。Sのルールを忘れたのか。コイツはッ!」
「落ち着けよ。薫。過ぎちまったことを愚痴ってもしょうがないだろ」
「過ぎていない! これが外に出ないものだったから良かったものを、仕事にとんでもない支障が出るところだったんだぞ!?」
「私は既に生じてるけどね。会話文とか、色々とで特定不可避」
「確かに、お前以外にいなさそうだもんなぁ」
「だからって肯定するわけにもいかないでしょ? 薫の表の顔がAI書道家で、Cherry blossom≠ヘ最先端AIを使う、かの有名な書道家だってバラすことと同じになっちゃうんだから」
「当たり前だッ! したら海に沈めるぞ」
「脅しが怖いって! ガチすぎるでしょ!?」
「心配しなくても、コイツがするわけないだろ!? 薫と××は、一蓮托生の関係なんだぜ?」
「いわれなくてもわかってるわ! ボケゴリラッ!! つまり、全ての皺寄せは俺に来るというころだろうが!」
「だって、私が来ればこの会話文に納得を持たせちゃうじゃん!?」
「俺もフォローするから、落ち着けって。薫。とりあえず、今はこれをどう鎮火するかを優先しようぜ」
「××も来い。お前と俺が喧嘩をすれば、すぐに噂が嘘と気付くだろう」
『それはオススメできません』
「なんだって!?」
「頭に血が昇ってるからだよ。薫、落ち着いて。ほら、水でも飲んで」
「飲んでる場合かッ! 逆に説得力を持たせてしまうことになるからか? カーラ」
『はい。その通りです』
「クソッ!」
「一番は喉元を過ぎるまで耐える、だが」
「薫にそこまでの堪え性が、というか今回は今回がだし」
「このッ! S以外に流出しないのが唯一の救いだがなぁ!?」
「とりあえず、虎次郎はファンの子にどう説明したの?」
「ん? そんなのは当人同士しか知らない、ってだな」
「まぁ、虎次郎のファンの子たち同士でなら、フィクションとして浪費されるだろうけど」
「俺は針の筵に立たされたままだぞ!? あー、虎次郎。カーラの端末を一部貸すから、俺の代わりにSの様子を撮影してこい」
「なんでだよ!? そもそも、なんで俺にカーラの端末の一部を貸すんだよ。俺に貸さないほど、大切なヤツなんじゃないのか?」
「当たり前だッ! お前の雑頭に任せたら俺の欲しいものが手に入らないからだ。カーラのオートに任せて、お前が足の方が一番役に立つ」
「おい!」
「じゃぁ、虎次郎がSに出て、私と薫は暫く謹慎ってこと?」
「はぁ、いいけどよ」
「俺は良くない! クッ、暫く作品作りに籠るとするか。カーラ、なにか気分転換になるものを」
『カクテルはどうでしょうか?』
「いいな、なにか、気の晴れるものを一つ頼む」
『了解しました。マスターの好みに合うものを検索します』
「で、そのまま俺に作らせる流れかよ?」
「虎次郎、今だけは飲み込んで。薫、すごい大変な立場にいるから」
「はぁ、まぁ気持ちはわかるけどよ。ファンの子と交流をしなかったお前も悪いと思うぜ?」
「お前と同じにするなッ! ナンパゴリラ!!」
「なんだって!? 人が心配してやってるっていうのに! お前!!」
「うわぁ。喧嘩だけど、ちゃんとカーラのいったカクテルは作ってあげて」
『検索中。二一件ヒットしました。現在、Sia la luce≠ノある酒類及び調味料、あると思われる食材などで作れるもので絞り込んでいます』
「わぁ、すごい。カメラが動いたと思ったら、そういうこと」
「毎回毎回人が心配してきたら喧嘩売りやがって!」
「その度にしょぼくれた顔を見せられているこっちの身にもなってみろ! 阿呆ゴリラ!」
「なんだって!?」
「なんだと!?」
「喧嘩を売る気なら買うぞ!? 馬鹿眼鏡!!」
「お前こそ最初に俺へ喧嘩を売ってきているだろ!! 馬鹿ゴリラ!」
「真似するんじゃねぇよ!」
「真似しているのはそっちだろ!」
「なんだと!?」
「やるか!?」
「あっ。カーラ、こういうのはどうかな?」
『いいと思います。現在、度数及び代用品を探しています』
「カーラは便利だなぁ」
「この野郎!」
「このっ! 絶対泣かす!!」
「泣かしてみろよ!」
「いったな!?」
「おぉ、いったとも! 泣かすもんなら泣かしてみろよ!」
「その言葉、絶対後悔するなよ!? 馬鹿ゴリラ!」
「いや、あの。なに掴みかかって、あー。あーあー」
 ××が顔を顰めるのも束の間、二人がもみくちゃになって床に倒れ込む。しかもカウンター越しに、虎次郎が薫に背負い投げされてのことだ。障害物を数点挟んだものだから、バランスは崩れる。投げられた虎次郎の足で照明は揺れ、部品の数点も蹴られた。これは洗う必要があるだろう。××は、乱れたカウンター内部を見て思った。
 床に倒れた大の男二人を見る。両者ともうつ伏せになり、顔を上げなかった。
「くそっ、俺だって滑りたいのに」
「俺だって女の子とイチャイチャしたかったんだぞ」
「あー、なんというか、ご愁傷様」
 服が汚れることを余所に泣き言を漏らす男二人に、××はそう合掌した。


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