シクシクした痛み

 急な寒さで胃がシクシクと痛む。ヒートテックを着ても効果は薄い。滑りたくても体調不良が重なると、外へ出る回数が少なくなる。えいやっ! と気合いを入れなければならない。(うぅ、指スケ買おうかなぁ)もう、それで屋内で練習をするしかない。(どうしようかな、今月の出費)そもそも、沖縄に突然の寒波が来るなんて聞いてない! クソッ、地球温暖化め!! と愚痴を零していると、炬燵に入ってる薫がいう。
「もしかして、お前。身体が弱いのか?」
「なにを突然。寒さに弱いの!」
「身体を動かせば温かくなると思うんだけどなぁ。ほら、出来たぜ。ベッドから出られるか?」
「部屋が温かくなったから、多分」
「それにしても、この『炬燵』という製品は良いな。こうした寒い日に大変役に立つ」
「あっても邪魔になるだけだろ。それにしても、よく持っていたな? こんなもの」
「引っ越すときに、勿体なかったからね。それに一人用だし嵩張らないかなって」
「あぁ、大人数だと広くなるのか」
「おい。入ろうとするな」
「あ?」
「炬燵を愚弄した者は入るなといったんだ! この低能ゴリラッ!!」
「俺だって入りたいんだよ! 腐れ眼鏡ッ!! そもそもお前が出ればいいだけの話じゃねぇか!」
「断るッ!! 今は俺だけのものだ!」
「そもそも、虎次郎は入れないんじゃないかな。サイズ的に、窮屈だと思う」
「はぁ!? お前までそういうこというのかよ!?」
「それ見たことか。最初からお前の入る炬燵など無い! さっさと帰れ。ぼんくら!」
「他人に料理作らせておいて帰れたぁ、随分な物言いだなぁ? えぇ? ロボキチッ!!」
「お前がいるとさらに部屋が狭くなるだろうが!」
「だったら床に置いてあるカーラはどうなんだよ! えぇ!?」
「お前よりは邪魔になってない!!」
「いいや、邪魔になってるね!」
「今月ヤバかったら薫にカーラの分請求するからいいよ」
「なに!?」
「ほら見ろ! やっぱりコイツが負担しているじゃねぇか!!」
「だからといってお前の分は払わんがな! 虎次郎!!」
「なんだと!?」
「仕事に使う分は、向こうに移したから、広いはずなんだけどなぁ」
 炬燵を出した分、仕事の机も資料を纏めた部屋に移した。勿論、パソコンもそのままである。ベッドに入った部屋着のまま、薫の入る炬燵に入る。(髪、ちゃんと乾かしてから寝てよかった)予想通り、薫の伸ばした足とかち合ったわけだけど。薫は退く気がない。
「ねぇ、当たるんだけど」
「知らんな。俺は炬燵を堪能しているんだ」
「コイツ。正座するのも足が冷えるんだよ? ここは体調の悪い人に譲って」
「そもそも、これは一人用だろうが」
「だから、薫が譲歩するの」
「なんでだ」
「私が持ち主だから」
 そういうと、薫がムッとする。「その通りだぜ」と虎次郎も助け船を出してくれた。そうだ、そうだ。うぅ、ベッドから出た分、胃が痛い。シクシクと痛む胃を押さえてたら、渋々といったように薫が炬燵から出た。「ったく」と呟いて、正座をした膝を炬燵に入れる。足は畳んだものの、炬燵から出る気はないようである。
 炬燵のテーブルには、虎次郎が気遣ってくれた胃に優しい料理がいくつか並んでる。しかも、体調が良くなった日に食べても美味しいくらいのものだ。
「もう、虎次郎がいないと生きていけない体調になりそう」
「なッ!?」
「おっ、そいつは嬉しいねぇ。もっと頼ってくれてもいいんだぜ?」
「それ、依存しそうで怖いって意味で使ったんだけど?」
「依存してくれても構わないぜ? シニョリーナ」
「ほら。『シニョリーナ』って使ってる時点で滲み出てるー」
「ハハッ。こりゃ、一本取られたな」
「おい。どういうことだ。説明しろ!!」
「虎次郎はベッタリと依存されることは嫌いみたい」
「嫌いなんてことはねぇよ。依存してくる女の子も、しっかりとフォローするぜ?」
「でも、負担はかかるんでしょ?」
 そう見栄を張る言葉に突っ込んだら、虎次郎が「ぐっ」と黙る。どうやら当たっているようだ。(そりゃそうだ)依存する人間に構われると、こっちも時間が無くなって体力も精神も消耗してしまう。「身から出た錆というヤツだな」「そりゃ昔の話だッ! 今はそんなことねぇよ。クソッ」「なんか色々とありそう」「あ、んんっ、ゴホン。今、なんていったかな?」「聞く気はないけど」(今、薫との喧嘩に釣られて語尾が荒くなったな)そう虎次郎の振り返ったときを思い出しながら思う。完全にキレていた。といっても、「聞きたくない」や「聞く気はない」は本当のことである。真心だ。今聞いたら、こっちまで体力や精神を持って行かれてしまう。
 虎次郎の作ってくれた、胃に優しいスープを飲む。
「でも、ここまで尽くしてもらったら依存してしまいそうで怖いなぁ、ってのは本当」
「なら、自分で体調に気遣ってくれ。ピッコリーナ。君が倒れちゃうと、俺の胸が心配で張り裂けそうだ」
「といってますが、桜屋敷先生」
「カーラ」
『マスターがいうには、聞き流せとのことです』
「遠回しに機械使ってんじゃねぇよ! 狸眼鏡ッ!!」
「機械じゃない! カーラだッ!!」
「知ってるよ!」
「薫のだけ、なんか色違くない?」
「コイツのだけ唐辛子で最終的に味付けを調整したからなッ!!」
「なんだと!?」
 余念がない。どうやら、薫のだけ特別に拵えたようだ。(今月の光熱費と水道代って)まぁ、いいや。普段から使う機会が少ないし、この機会に覚えておこう。見舞いに来てくれた二人を余所に、もぐもぐと柔らかく煮込んだ具材を食べた。今は食事に集中したい。「辛いものしか作れんのか! お前はッ!?」「うるさい! この前のリベンジだよ!!」虎次郎もリベンジに容赦がない。ズッとスープを一口飲んで、もう一回食べるのに戻った。
(本当、胃に優しいな。これ)
 二人の親切心に甘えて依存してしまいそうで、本当に怖かった。


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