またしても喧嘩

 ホットチョコレートを飲む。牛乳を温めながら細かく刻んだチョコレートを入れ、溶かしながら作ったものである。こちらは飲み口は軽やかだが、イタリアのものだと違う。イタリアのものだと、チョコレートフォンデュのチョコのように濃厚で、口当たりが重いものだ。ciccolata calda>氛沒本人の胃には、少し重い。胸焼けをしてしまう。このデメリットを解消して飲みやすくしたものを、南城は開発していた。思考錯誤した一品が、××と桜屋敷の前に出される。桜屋敷は眉を顰め、××は涼しい顔で一口飲む。どちらも、一言も発さない。桜屋敷は一旦口を離したあと、もう一度飲み進め、××は首を傾げる。(なにか悪いところがあったか!?)フッと不安が過り、緊張した顔付きで尋ねた。
「ど、どうだ?」
 震える声で尋ねる南城に、××は首を振る。「うん。美味しいし、飲みやすいと思うよ」この発言に南城は焦る。『と』とはなんだ。『と』とは? 不安と同時に疑問が湧き出る。焦燥する南城を、桜屋敷は鼻であしらった。
「フンッ。先に飲んだ本場のものとは随分と味が違うな」
「うるせぇな。今は聞いてねぇよッ!!」
「薫の言う通り、本場と比べたら違うけど。虎次郎はなにを出したいの?」
「チョコラータ・カルダの濃厚さと口当たりを残しつつ、胸焼けがしにくいヤツ」
「難しそうだね」
「ったく、身の程を弁え」
「あ!? なんだと!?」
「素直に本場に近いものを出せといったんだ! 馬鹿ゴリラッ!! コースで出すなら、前後を工夫するなりすればいいだろう」
「それができたら苦労しねぇよ!! 単体で出すにしても、食べ合わせがあるんだぞ!? だとしたら、全体の見直しってもんがなぁ」
「うわっ。労力半端ないじゃん。諦めたら?」
「お前までそういうこという? はぁ、観光客向けにも良いと思ったんだがな。ほら、クリスマスの時期だし」
「シェフは大変だな。で、お前はその日空いてるのか」
「おい!! 俺の前で勝手に抜け駆けすんな!」
「そういう薫こそ、忙しいんでしょ? クリスマスのイルミネーション用に書道パフォーマンスをするらしいし」
「そっちもかよ。聞く意味、ないんじゃねぇの?」
「これだから馬鹿ゴリラは。聞いてて呆れる。仕事帰りにデートをするのも一つだろう」
「ごめん、そこまでの余裕はないかも」
「断られてるぞ」
「黙れ。ボケナス」
「薫も虎次郎も忙しいんでしょ? なら、この話はおしまい」
「もしかしたら、暦たちとクリスマスパーティーをするかもしれんが」
「なにそれ。行きたい」
「おい」
「現金なヤツだなぁ。それだと、薫も合流できるだろ?」
「チッ! 仕方ないヤツだな。少し時間は遅れるが、合流はできるだろう」
「なら決まりだな。で、もう少し感想を聞いていい?」
「いいよ。口当たりは、本場のものより軽いと思うけど」
「だったら牛乳の配分を多くしたらどうだ。生クリームも少なくしろ」
「素人がシェフのやり方にケチを付けるんじゃねぇよ!」
「だったら素人に意見を求めているのはどういうことなんだ? え?」
「まぁ、素人の方が率直な意見も出るし、職人だとわからない盲点にも気付けるからね。利に適っていると思う」
「俺のカーラの方が専門家より役に立つだろう」
「の割には、さっきから黙っているようだが?」
『現在、検索エリアを広げています』
「これ、絶対イタリアの方まで伸びてそうだよ」
「カーラ。このゴリラの連絡先に、参考資料を」
「要らねぇよ! こういうのはな、自分の頭で作るしかないんだよ。どこかの誰かさんみたいに、機械の出てくる領分じゃないからな」
「なんだと!? カーラだって、いつかはできるようになるんだぞ!?」
「だったらいつになるんだよ!? えぇ!? 地球が何回回ったときにだよ!」
「カーラ!」
「機械に頼るのかよ!?」
「お前の単細胞頭では理解できんほど天文学的な数字の計算がかかるからだッ! ド阿呆!!」
「まさかの返し方」
 ポツリ、と南城試作品のホッチョコレートを飲みながら、××は呟いた。天文学的な計算から出た数字の桁は、いうまでもなく。キッチリ一の桁まで言い切った桜屋敷に、南城は腹が立ってこう切り返した。「一々細かいんだよ! 神経質眼鏡ッ!!」「お前が大雑把すぎるだけだろうが! 雑頭!! だったら馬鹿にもわかりやすいようにいってやる! 約」と、そこで大まかに四捨五入した値が出た。それでも、兆を超えていることに変わりはない。××はもう一口飲む。「しつこいなぁ! この眼鏡はッ!」「それはこっちの台詞だ!! 原始人!」「俺の方がいいてぇよ! ロボキチ!」「俺の方だ! ボケナス!」「んだと!? おたんこなす!」「ぼんくら!」「どてかぼちゃ!!」「アホッ!」「すかたん!!」以下延々と、またしても喧嘩は続く。××は最後に見た時間から、今の時間を引いて計算した。
「おっ、最高記録」
「なにがだ!?」
「二人が喧嘩しなかった時間」
 そして、飲み終えそうな時点での感想を何時いうか迷った。


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